第4章 【直哉×無関心女中】
(……認めへん。あんな泥くさい女、認めるわけにはいかんのや)
直哉は、沸き上がる得体の知れない動悸を振り払うように、逃げるように屋敷を飛び出した。
向かった先は、夜の喧騒が渦巻く街。
着飾り、塗り固め、欲望を隠そうともしない女たちが集まる享楽の場だ。
そこでその夜、一番に目を引いた女を選んだ。
派手な色彩を纏い、最新の流行に身を包んだ、誰もが振り返るような華やかな顔立ち。
禪院家の古臭い空気など一欠片も持たない、都会の完成された「美」だ。
直哉は彼女を連れ帰り、いつも通りに抱こうとした。
優越感に浸り、先ほどのの影を、この鮮やかな女の上書きで消し去るつもりだった。
だが。
「……っ」
いざ肌を重ねようとした瞬間、直哉の手が止まる。
女の首筋から漂う濃厚な香水の匂いが、鼻を突く。
暗がりで見るその肌が、塗り固められた化粧の下で、どれほど不自然に「作られた」ものかに気づいてしまった。
脳裏をよぎるのは、あの透明なまでの白さ。
山の中の静謐な空気と、規則正しい生活が育んだ、内側から発光するような無垢な肌。
そして、自分が与えた「紅」一筋だけで、この世の誰よりも鮮やかに咲いた、あの震えるような唇。
「……あかん。……どけ」
「えっ……? 直哉様?」
「触んな言うとる。……帰れ。もおええわ、興が削がれた」
困惑する女を無理やり部屋から追い出し、直哉は一人、寝台の上に倒れ込んだ。
胸の奥で、煮えくり返るような苛立ちが渦を巻く。
(なんやねん……! なんであんな底辺の、掃除しかできんような女に……!)
負けん気が強く、常に「強者」でありたい直哉にとって、名もなき使用人の女一人に心を掻き乱されるなど、耐え難い屈辱だった。
自分が「書き割り」と呼び、価値がないと断じた相手に、身体が、本能が、敗北を認めてしまった。その事実が、彼の傲慢なプライドをズタズタに切り裂いていく。
一睡もできないまま、夜が明けていく。
障子の隙間から差し込む朝陽が、寝不足の目に鋭く刺さった。