第4章 【直哉×無関心女中】
自分が見下していたはずの、代えのきく小道具。
それが今、自分が与えた色彩を完璧に纏い、自分の想像を遥かに超えた「女」の顔をして、そこに立っている。
「……おま……っ、お前、……なんや、その……」
嘲笑おうとしていた口は半開きになり、扇を持つ指先がかすかに震える。
隣にいた女は、直哉の豹変ぶりに鋭い視線をへ投げつけた。
自分が引き立て役となったことを自覚したのか、あるいは直哉の心が瞬時に自分から離れたことを察したのか。
女は当てつけのように直哉の腕を強く、爪が食い込むほど硬く握りしめる。
しかし、直哉は微動だにしない。
金縛りにでもあい、呼吸をすることさえ忘れたように固まっている。
「……? 直哉様?」
あまりに無反応な主の様子に、は小さく首を傾げた。
何か不手際でもあっただろうか、返事がない以上、これ以上仕事を止めるわけにもいかない。
「……失礼いたします」
深く頭を下げると、彼女は静かに、けれど迷いのない足取りでその場を去っていった。
廊下の角を曲がり、その姿が完全に見えなくなるまで、直哉の視線は彼女の背中を追い続けていた。
二人きりになった瞬間、女は我慢できずに直哉の袖を引いた。
「直哉様! あんな地味な女、放っておいて奥へ行きましょう? せっかくお誘いいただいたのですから……」
縋り付くような甘い声。
いつもなら、直哉はそれを鼻で笑って受け流し、自分の優越感に浸っていたはずだ。
だが、今の直哉にとって、その香水の匂いは鼻を突くほどに疎ましく、女の厚化粧さえもひどく色褪せて見えた。
「……あ、いや。……もおええ。お前、今日は帰れ」
突き放すような、冷徹な一言。
「えっ……? なんでですか、直哉様!? 」
「しつこいな。気分が変わったんや。はよ帰れ言うとるのが聞こえんのか」
直哉は女の腕を乱暴に振り払うと、彼女の顔を見ることさえせず、踵を返した。
背後で「直哉様!」「酷いですわ!」と呼びかける悲鳴のような声が響くが、今の彼の耳には届かない。
心ここにあらずといった足取りで、直哉は自室へと向かう。
襖を閉め、一人きりになった静寂の中で、彼は崩れるように壁に背を預けた。