第4章 【直哉×無関心女中】
「これで、どうにかなりましたでしょうか……?」
慣れない紅の重みに、はおずおずと女中たちを振り返った。
鏡の中の自分は、まるで見知らぬ誰かのようで、心許ない。
けれど、彼女を取り囲んでいた女中たちは、一斉に感嘆の声を上げた。
「ええ、本当に綺麗になったわ。素材が良かったのねぇ」
「直哉様も、これなら二度と文句は仰いませんわよ」
それからというもの、は毎日、教わった手順を必死に繰り返した。
指先が震えて紅がはみ出したり、粉を叩きすぎて真っ白になったりと失敗も繰り返したが、その度に元芸妓の女中が「ここはこうよ」と厳しくも温かく手解きをしてくれた。
そうして数日が経ち、彼女は自分一人で、あの鮮やかな「紅」を美しく差せるようになっていた。
とはいえ、直哉と顔を合わせる機会はそれほど多くない。
当主代行として忙しなく立ち働く彼と、屋敷の隅々を磨き上げる彼女。
住む世界は相変わらず分かたれたまま、いつもの静かな日常が続いていた。
——そんなある日の午後。
庭先に近い廊下を掃除していたの耳に、またあの賑やかな、どこか浮ついた足音が聞こえてきた。
「……。またそんなとこで這いつくばっとるんか」
直哉の声だ。その隣には、今日もまた、華やかな身なりの新しい女が寄り添っていた。
直哉は、いつものように自分の優越感を誇示し、彼女を嘲笑うために声をかける。
「ええ加減、その見窄らしい格好はなんとかならんのか。この女を見てみぃ。お前とは住む世界が……」
勝ち誇ったように言いかけて、直哉は言葉を失った。
呼びかけに応じ、膝をついていたがゆっくりと立ち上がり、彼を振り返ったからだ。
「……直哉様、お帰りなさいませ」
そこには、泥にまみれた「書き割り」の姿はなかった。
丁寧に整えられた白い肌。
夜の闇を溶かしたように深い墨。
そして何より、直哉自身が与えた、あの鮮やかな「紅」が、彼女の唇の上で一輪の牡丹のように咲き誇っている。
直哉は息を呑み、そのまま石像のように固まった。