第4章 【直哉×無関心女中】
翌日。
がいつものように大広間の縁側を拭き掃除していると、背後から音もなく人影が差した。
「……これ、やるわ」
頭上から降ってきたのは、およそこの場に似つかわしくない、不機嫌極まりない声だった。
見上げれば、そこには昨日と同じ、傲慢な光を宿した瞳で自分を見下ろす直哉が立っていた。
彼の手には、小さな、けれど一目で高級だとわかる漆塗りの小箱が握られている。
「……直哉様? これは……」
「黙って受け取れ」
差し出された箱を、はおそるおそる受け取る。
蓋を開けると、そこには見たこともないほど鮮やかな、一輪の牡丹の花のような「紅(べに)」が収められていた。
「……べに、でございますか?」
「せや。お前があまりに見窄らしいから、少しはマシな面になれ言うとるんや。見苦しい」
「見苦しい……。わかりました」
直哉の冷徹な言葉を、はいつものように静かに受け止めた。直哉は鼻で笑うと、一瞥もくれずにその横を通り過ぎていく。
後に残されたのは、彼が投げ捨てていった高級な「紅」の小箱と、途方に暮れる彼女だけだった。
は困り果て、台所にいた女中たちにその箱を見せた。
「……あの、直哉様にこれで顔を調えろと仰せつかったのですが、使い方がわからなくて」
その言葉に、元芸妓の経歴を持つ年配の女中が身を乗り出した。
「あらまあ、あの方は相変わらず物言いねぇ。
いいわ、私が手本を見せてあげる。
きちんと覚えておきなさいな」
そこからは、にとって未知の儀式だった。
手際よく顔の産毛を剃り落とされ、肌を整える下地から、きめの細かいパウダー、そして睫毛を際立たせる墨まで。
女中は一つ一つの手順を丁寧に、けれど厳しく教え込んでいく。
「いい、紅はこうやって筆に取って、輪郭をなぞるのよ。
あんたは母親譲りで顔は綺麗なんだから
……さあ、自分でもやってみて」
教わった通りに、震える指先で紅を差す。