第3章 轟焦凍のHERO童貞理論
浅い眠りでカーテンの隙間から差し込む光に薄々気付きながら、普段とは違う微睡の中を彷徨う。夢の内容もぼんやりしていて現実との境界線が曖昧で、体の端がふっと軽くなる感覚に完全に意識が引き戻された。体を動かすと隣の温もりに気づく。ベッドの真ん中の凪はまだ眠ったままで、穏やかな呼吸を繰り返している。
短い睡眠だったはずなのに、不思議と疲れは残っていない。むしろ胸の奥が静かに満たされていて、目を覚ましたばかりだというのに、このまま時間が止まればいいと思ってしまう。
「可愛いな…」
不思議と疲れは残っていないのに余韻だけが残っている。
「おはよう」
「……ん?…朝?」
かすかに身を寄せ直した凪の瞳がゆっくりと開く。一瞬だけ、時間が止まったみたいに見つめて、状況を理解するのに少し時間がかかったのか、きょとんとした表情のまま口を開く。
「焦凍…、そっか。昨日…」
「体は大丈夫か?」
「うん。全然平気。朝になるの早くない?」
「昨夜は遅かったからな。もう6時過ぎだ」
「起きた方がいい?」
「まだいい。こういう無防備なとこ、見たことねぇから…」
「いいの?」
「俺がそうしたい」
無断外泊や仕事、リアルな優先順位も頭を過ぎる。それでも今は鳴らないコールに気づかないふりをした。凪との時間を何よりも大切にしたい。この状況が感情を乱すのか、このまま時間が止まればいいとさえ思う。
「こんなの離れたくなくなっちゃうね」
「俺も、離したくねぇ」
「ねぇ焦凍…。昨日のお願い覚えてる?」
「昨日?」
「次、私がしようって言ったらその時はちゃんと応えてって話」
「ああ…、覚えてる」
「まだ一緒にいられるなら、もう一回してみない?」
胸の奥に静かに火をつけて逃げる選択肢も奪っていく。自分の中で何かが切り替わって、ただ、凪の気持ちに応える。それが自分にできる唯一の答えだ。
Tシャツを脱ぎ、凪のルームウェアのボタンに手をかける。露わになる素肌に戸惑っていたのに今はもう迷いがなかった。昨夜みたいに部屋の灯りが凪の体をはっきりと映すよりも、カーテンの隙間から漏れる光しか入らないぼやけた肌の色に理性は揺れた。