第3章 轟焦凍のHERO童貞理論
俺の足りなかったものは優しさでも愛情でもなく〝覚悟〟だった。爆豪の言葉が何度もリフレインする。止まっていたのは自分の方で、優しさに逃げて拒まれることを恐れていた。初めて見た彼女の涙は俺の不甲斐なさが全てで、今も脳裏に焼き付いている涙は胸の奥を締めつける。
今すぐにでも会いたい、ただそれだけで、気が付けば凪のマンションの前に来ていた。夜も更け時刻は23時を過ぎている。街灯だけが道を照らすな光の中で、息を整えながらスマホを開く。
こんな時間にかけて何から話せばいいのか、過ぎる不安も飲み込み、通話ボタンを押す。呼び出し音のコールがいつもより長く感じて願いは徐々に焦りに変わっていく。
「焦凍…?」
スマホ越しの声に聞こえた声に自然と顔があがる。第一声が上手く出なくて吐く息が震えていた。
「……悪い、こんな時間に。寝てたのか?」
「今、お風呂から出たところだったから大丈夫だよ。何かあったの?」
泣かせてしまった後とは思えないほど、いつもと変わらない声に張り詰めていた緊張がほんの一瞬だけ解ける。
「こんな時間に無理なのは分かってる。…けど、今から会えないか?」
「え…、今?」
「少しでいい。話がしたい」
夜は静かで凪の家の前の道だけがやけに現実で、戸惑っているのか返事を待つ空白に焦りを感じる。そのときすぐ近くでクラクションが鳴った。
「……焦凍?どこにいるの?」
クラクションのタイミングが重なって偶然だと言うには無理があった。
「凪の、家の前だ…」
真っ直ぐに2階の角部屋を見つめる。部屋のカーテンが開き光が漏れ、顔を覗かせた凪と目が合う。自分を拒んでいないことだけが救いだ。
「もしかしてずっと外にいたの?」
「今来たところだ」
「玄関開けるから上がってきて?」
「…ありがとう」
階段を昇りながら電話越しの声を思い出す。普段と変わらない声色に重かった足取りが軽くなった気がした。扉を開けて出迎えてくれた凪は束ねている髪の毛を下ろして目元がいつもより柔らかい。