第4章 HOME 爆豪勝己 / 轟焦凍
かすみ草を見つめたまま、ふと顔を上げると、勝己はどこか落ち着かない様子で視線を逸らしていた。わずかな沈黙がふたりの間に落ちる。
「来月、……アメリカに発つ」
一瞬、思考が止まった。無意識に手の中のかすみ草を握りしめて、ただ勝己の顔を見つめる。
「アメリカ…?」
「向こうからのオファーだ。来週、正式発表される」
「焦凍、そんなこと一言も…」
「まだ誰にも言ってねぇからな。そのうち話すつもりだ…」
「そっか…。また、帰ってくるんだよね?」
「5年の契約だ」
「そんなに?」
「凪に命救ってもらって、俺もまだまだだなって思った。向こうに行ってる間に、鍛え直してくる」
まっすぐ向けられた視線。その奥にある静かな決意に、胸の奥がじわりと熱を持つ。
「決めたんだね」
「ああ…」
「少し、…寂しくなるね」
言葉にした瞬間、風がふっと通り抜けてかすみ草が小さく揺れた。勝己は何も言わず、ただ、逸らさない視線だけがそこに残る。
「だったら私も、負けないようにしなきゃね」
「凪は十分、強くなった。元々、弱くもねぇだろ」
「それは勝己や焦凍のおかげだよ。でもね、私も、少しずつ変化してるんだよ」
「なんだよ?」
「運転、始めた」
その言葉に反応するように一瞬、勝己の目が見開かれた。口元がわずかに開いたまま固まり、短い沈黙が二人を包む。
「マジか…」
「うん。……でも、三回擦って、二回ぶつけちゃったけど」
「轟の車をか?」
「………うん。だいぶ慣れてきたけど、交通の少ない時間に練習させてもらってる。それでも、私にはちょっと大きいみたい」
「それであいつは何も言わねぇのか?」
「私もさすがに申し訳なくて、〝もう運転はしない〟って言ったの。でも焦凍はね、車に傷がついても私が頑張った証拠だなって、……むしろ愛着が湧くなって言うの。そんなこと、普通言えないよね」
「それは別の意味でやべぇわ」
「私のこと甘やかしすぎだよね」
「…俺にはできねぇことだわ」
「え?」
「いや、なんでもねぇ。けど、廃車にしてねぇンなら上出来だな」
その言葉を言い終えると、短く息を吐く。どこか呆れたようにも見えるけど、勝己の表情は柔らかくて、思わず笑みがこぼれる。