第4章 HOME 爆豪勝己 / 轟焦凍
最後の片付けを終えると、アパートを出た。朝の空気よりもずっと暖かくて日差しが眩しい。頬に触れる風は穏やかで、見上げた空は青くどこまでも澄んでいる。
これからは焦凍のマンションへ移るから、この場所に立ち寄ることも少なくなるだろう。わずかな寂しさも残るけど、勝己が守ってくれたこの街。足元を確かめるように一歩ずつ、思い出をなぞるように、復興の進むこの街をゆっくりと歩いた。
道の端に咲いている名前も知らない小さな花。陽だまりの中で丸くなって日向ぼっこをしている猫。私に気付いて顔をあげるけど、撫でろと言わんばかりにまた目を閉じる。誘われるようにしゃがみこんでそっと手を伸ばすと、指先に触れた毛は柔らかい。
やさしく背を撫でると、温かさとふんわりと太陽の香りもする。穏やかな時間に、思わず小さく息をついた、そのときだった。
「凪」
忘れるはずのない低いその声に心臓が跳ねる。空気が一瞬だけ止まったように感じて、撫でていた手が止まる。振り返ると、そこにはヒーロースーツに身を包んだ勝己が立っていた。
「…勝己」
目があった一瞬、時間が止まったように感じる。
「さっきアパートに入ってくのが見えた。もしかしたら、またこの辺通るんじゃねぇかって…」
「うん。……引っ越すから、片付けをしてたの。勝己は?パトロール?」
「ああ」
そういうと勝己は視線を外しながら、言葉を選ぶようにポツリと呟く。
「久しぶりに、花屋のばーさんに会った。……これ、凪に渡せって」
そう言って手渡されたのは白と淡い青のかすみ草の小さなブーケだった。ふわっと香る匂いに、胸の奥にしまっていたあの日の光景が静かに重なる。
「……おばあさん、元気だった?」
「ああ。変わんねぇ。…凪にすげぇ感謝しとった」
「私に…?」
「ああ…」
「……嬉しい」
受け取ったかすみ草の柔らかな花の感触。白と青、一つ一つの小さな花が揺れて、勝己の不器用でまっすぐな優しさが胸に広がっていく。