第4章 HOME 爆豪勝己 / 轟焦凍
「なんでそんな驚いた顔してるの?」
「……爆豪のとこに、戻ったんじゃないのか?」
焦凍はきっと私のために身を引く覚悟をしていたんだと思う。何も言わずに、自分一人が背負えばいいって、昔の私みたいに…。
それが痛いくらいに切なくて、気付けば体が先に動いていた。ベッドに腰掛ける焦凍のそばに歩み寄って、そのまま強く抱きしめる。
「凪…?」
焦凍の声が不安に揺れているように聞こえた。
「私は、焦凍が好きだよ…」
ただの〝好き〟じゃない。もっと強い何かがはっきりと形になっていく。
「正直、揺れなかったわけじゃない。でも、焦凍は勝己に会えって言ってくれて、最後まで私の気持ちを守ってくれたでしょ?」
言い終えたあとも、抱きしめる腕に力を込めたまま離さない。
「だから、次は私が焦凍を守るの」
しばらくの沈黙のあと、背中に触れる感触があった。焦凍の腕が、ゆっくりと私の背中に回る。
「……本当に、いいのか?」
かすれた声が、すぐ近くで響く。戸惑いを隠せてなくて、どこまでも慎重で優しくて、少し怖がりな焦凍がたまらなく愛おしい。
「さっきね、一人マンションに帰って静かな部屋で思ったの。……私は焦凍とここに帰りたいんだなって」
少し間を置いて、息を整えて、静かに囁く。
「一緒に帰ろう?」
抱きしめたまま、互いの顔がほんの少し離れる。焦凍の瞳が揺れて、私をじっと見つめる。
「……凪」
小さく呼ぶ声に、胸が熱くなる。焦凍の瞳が潤んでいるようにも見えた。思わずこみ上げてくる感情は、涙になって視界が歪む。
「ありがとう…。今はそれしか言えねぇ。けど、俺を選んだことを、絶対に後悔させねぇから」
「しないよ、後悔なんて」
視線が交わったまま、ゆっくりと唇が触れ合う。初めは軽く確かめるように、でもすぐに互いの温もりを求めるように、焦凍の息と私の息が混ざり合う。
抱きしめた腕の力を緩めることもできず、ただ、この瞬間に全てを委ねた。
ねぇ、焦凍。
あの日、見た二人で見た海の色も
ブルースターの花の色も
何もなかった私の心に灯してくれた
小さな希望だったって
今、分かったよ。
窓の外には冬の夜空。街の明かりが遠くきらめいて、病室の柔らかな光が二人を優しく包んでくれていた。