第4章 HOME 爆豪勝己 / 轟焦凍
二人と別れてから、私は一人、焦凍のマンションへと戻った。まだ処理しきれない感情が心の奥にあって、落ち着かない。昨日までの日常と同じはずなのに、静まり返った部屋には、響く自分の足音に寂しさを感じていた。
「寒…」
12月の冷たさがそのまま残るリビングには、数ヶ月間の焦凍の匂いや温もりがまだ残っている。カーテンの隙間から差し込むわずかな光。二人で座っていたソファや、バルコニーで過ごした時間の記憶。焦凍がいないというだけで、触れられそうで、触れられない。
誘われるようにバルコニーに出ると、プランターのブルースターは葉っぱだけになってしまっていた。焦凍がそばにいないだけで、心にぽっかり穴が開いたように感じる。だけど、焦凍と過ごした時間の温もりが、静かに私を包んでくれている気もした。
もう一度、二人であの小さな花を見たい。
その想いが強く色濃くなり、迷いを消し去る。私の選択は、間違っていない、そう確信できた。
明日持って行くはずだった焦凍の着替えをカバンに詰め込んで、私は家を出た。12月の冷たい夜風が顔に触れる。焦凍への想いと、自分の決意を抱えたまま、カバンの紐をぎゅっと握りしめて足早に進む。
面会時間は終わっていたけど、洗濯物を届けにきたと伝えると看護師さんは快く通してくれた。
昼間とは違って廊下は静まり返っていた。焦凍の病室が近づくにつれて緊張で体がこわばっていく。扉の先の焦凍にどんな顔をして会えばいいんだろう。
ノックの後の短い返事に、私は小さく息を吸って扉に手をかけた。
「…凪」
顔をあげた焦凍が、驚いたように私を見た。一瞬だけ言葉を失ったように口を閉じたまま、その視線が揺れる。
「ごめんね。こんな時間に来ちゃって」
普段通りのトーンで声かけながら、カバンの中からタオルや着替えを取り出していく。
「焦凍の着替えを取りに帰ってたの。本当は面会時間過ぎてるけど、特別室だし、洗濯物を届けるだけならいいですよって」
クローゼットにタオルをしまって、扉を閉めて振り返る。焦凍はまるで信じられないものを見るみたいな表情で私を見つめたままだ。