第4章 HOME 爆豪勝己 / 轟焦凍
その時、コン、と小さく扉を叩く音がした。
「……入るぞ」
低くて、聞き慣れた声だった。その一言だけで、胸がぎゅっと締めつけられる。
「……うん」
返事をした声は、思ったよりも小さかった。
ゆっくりと、扉が開き、そこに立っていたのはダークグレーのタキシードに身を包んだ、勝己だった。
いつもより少しだけ整えられた髪。きっちりと締められたネクタイ。見慣れているはずなのに、どこか違って見えるその姿に、息が止まる。
勝己は一歩、中へ入ると、そのまま、足を止めた。
何も言わない。ただ、まっすぐにこっちを見ている。それだけで、心臓がうるさくなる。
「……勝己?」
不安になって、思わず名前を呼ぶ。勝己は小さく舌打ちをして、視線を逸らした。
「似合ってねぇ、とか言わせねぇぞ」
ぶっきらぼうな声だった。
「……クソほど似合っとる」
ぽつりと照れを含んだその言葉は、どこかやけに優しかった。その瞬間、胸の奥が一気に熱くなる。
「……っ」
言葉が出なくて、勝己は少しだけ眉を寄せて、私の顔を覗き込んだ。
「ンだよ、その顔…」
「だって……」
似合ってる、なんて…。私に向けてくれていることが、まだどこか信じられない。
「凪が選ばねぇドレスだなって思った…」
「え?」
「凪は自分のこと、ちゃんと分かってねぇからな。俺が、着てほしかった…、それだけだ」
視線を上げると、すぐ近くにある赤い瞳とぶつかる。
さっきまでの不安も、迷いも、全部どうでもよくなるくらい、その視線はまっすぐだった。
「今日は誰のためでもねぇ、俺だけの花嫁でいろ」
「……行くぞ」
そう言って差し出された手。
迷うことなく、その手を取った。
指先が触れた瞬間、もう離したくないと思った。