第4章 HOME 爆豪勝己 / 轟焦凍
「個性が消えても凪は凪だ。俺は、お前の孤独も辛さも何ひとつ気づいてやれなかった」
「それは私の弱さだったの。私がもう少し強くいられたら、あんな選択はしなかったから」
「今更、抱きしめる資格なんてねぇよな。俺がお前を傷つけた。あの日、俺が全部壊した現実だけは変わらねぇ」
「そうだとしてもあの日があったから、私は、勝己の命を繋ぐことができたんだよ」
だから全部に意味があった。手の甲に残る傷跡だって、確かに勝己を愛した時間だったことには変わりないから。鼻の奥がツンと痛んで、目の前の勝己が涙で歪む。
「焦凍は、私が勝己を好きなままでもいいってそう言ってくれた。想いを抱えていたままの私も受け入れてくれたの。……だからまた笑えるようになった」
「笑えるようになったっつー奴が、泣いてんじゃねぇ。……誰に泣かされたんだって心配になる」
「そうだよね。泣いてちゃだめだよね」
自分にそう言い聞かせるように、涙が頬を伝うのを手でそっと拭った。胸の奥に残る痛みも温かさも、そのまま抱えて、少しずつ呼吸を整える。
「なぁ、凪…」
静かな問いかけの後、勝己の表情が一瞬和らぐ。
「もし…、まだ、少しでも俺への感情が残ってんなら…。その全部、俺にくれねぇか?」
勝己らしくない頼りない声だった。だけど、その言葉は私の心にそっと触れるように包む。
「情けねぇ頼みだよな…。それでも、凪を失いたくねぇ…」
すぐに言葉は出なかった。勝己と過ごした二年間で育んできた愛情と、空白の時間に生まれた新しい感情が、心の中で複雑に絡み合う。奪われるような熱い熱と、包み込むような優しい熱。そんな違う熱に溶かされてしまった私は、今、境界線を静かに手放す。
「凪…」
不意に名前を呼ばれて、はっと息を呑む。聞き慣れたその声に、心臓が大きく跳ねた。ゆっくりと振り返ると、扉の向こうで静かに立つ焦凍の姿が目に入る。まっすぐこちらを見つめるその瞳は、何も責めることなく、ただ静かに私を待っていた。