第4章 HOME 爆豪勝己 / 轟焦凍
しばらく何も考えずに時間を過ごした。日差しが斜めに傾き始める頃、私は鍵を握りしめてアパートを出た。片付けの余韻と街の穏やかなざわめきに包まれながら、少し遠回りをして歩く。
一匹の三毛猫が前を横切り、路地裏へと消えていった。いつもなら見送るだけなのに、今日は不思議と誘われるように後を追ってしまう。続く道の先に、小さな花屋さんを見つけた。店はおばあさんが一人で切り盛りしているらしく、店先のかすみ草が柔らかく風に揺れている。白く小さな花びらが、冬の冷たい空気の中で静かに輝いているように見えた。
「かすみ草だ」
指先で触れると柔らかくて、ふわっとした花の感触が優しい。
「いらっしゃい」
お店の奥から、おばあさんがゆっくりと顔を出した。
「ごめんなさい。勝手に触ってしまいました」
「いいのよ。店先に出してる花は、時間が経ってしまってる子たちだから。要る人がいたら持って帰ってもらってるの」
「そうなんですか?…こんなに綺麗なのに」
「あなたも、よかったら持って帰っていく?」
「いいんですか?」
「いいわよ」
少しだけ迷ってから、私は小さく笑った。
「私、かすみ草が好きなんです」
「そう。じゃあ、きっと喜ぶわね」
おばあさんはそう言ってから、ふと思い出したように続ける。
「よかったら中の花も見ていく?色づけしたかすみ草もあるの」
「はい。では、少しだけ…」
頷くと、おばあさんは嬉しそうに微笑んで、ゆっくりと店の奥へと歩き出した。
小さな鈴の音を鳴らしながら扉をくぐると、外よりも少しだけ暖かい空気が頬に触れる。店内には淡い花の香りが広がっていて、並べられた花たちが静かに色を灯していた。かすみ草も、白だけじゃない。淡いピンクや、柔らかな青に染められたものが棚に並んでいる。
「綺麗…」
思わず零れた声に、おばあさんがくすりと笑った。