第4章 HOME 爆豪勝己 / 轟焦凍
「……そんな顔してると、離してやらねぇぞ」
「ダメ。…洗い物が終わらないとお風呂も入れないし、お茶も淹れてあげられないよ?」
そう言い返すと、焦凍はほんの少しだけ目を細めて困ったように笑った。
「それは困るな。…俺も手伝う」
ふわっと体が解放されて背中にあったぬくもりがすっと離れる。ほんの少しだけ、物足りないと思ってしまった自分に気づいて視線を落とす。焦凍は隣に立ち、肩の触れそうな距離で、泡のついたお皿を洗い始めた。
「今夜は随分ゆっくりできるんだね」
「ああ」
「パトロールもないの?」
「今夜は緑谷と飯田が回ってくれている」
「そうなんだね、ここ最近ずっと仕事が続いてるみたいだったから心配だったの」
「何事もなければ、明日は休める」
「お休み?」
「呼び出される可能性もあるけどな」
「そっか…。お休みか…」
思えばここ最近はずっと休みなく任務漬けの毎日だった。夜もパトロールもあったし、いつ休んでいるのか不思議なくらいだった。
「出かけるか?」
「え?」
「遠出はできねぇけど、凪の行きたいところがあるならどこでもいいぞ」
「いいの?でも、疲れてるでしょ?休みならちゃんと休もう?」
「今夜ゆっくり休めば問題ねぇ」
〝それに…〟と続けかけて、ほんの一瞬だけ視線が揺れる。洗い物の水音だけが、静かに二人の間を埋める。
「……俺も、ちゃんとしたい」
ぽつりと落ちたその声は、さっきまでよりも少しだけ低くて、真剣で。
「凪と、恋人らしいこと」
まっすぐ向けられた視線に、胸の奥がきゅっと締め付けられる。
「じゃあ…、デートがしたいな。特別な場所じゃなくていい。お散歩でもいいから海に行った時みたいに、二人で歩きたいな…」
「いいな。…明日、行こう」
「うん…」
小さく頷いたその瞬間、ふっと距離が近づく気配がした。名前を呼ぶ間もなく、まっすぐに見つめられて逃げることもできなくて…。次の瞬間、触れるだけのやわらかなキスが待っていた。
二人で過ごす時間がただ特別で、明日の約束が待ち遠しかった。