第2章 XXXをおあずけされた爆豪勝己の話
いつもよりぬるめの温度、普段は使わない入浴剤、ペットボトルのお水とタブレット端末。浴室内は入浴剤の甘い香りで充満していて、すぐ肌に馴染む温度のお湯に浸かると全身の力がゆっくりと抜けていく。
持ち込んだタブレットを起動させ、溜め込んでいたドラマの続きを選択。〝くだらねぇ〟と文句をいう相手がないのも寂しいけどドラマの中の2人の恋の行く末だって気になったまま。甘い香りの中、しばし時間を忘れてドラマの世界を味わうことにした。
プールくらいの水温に落ち着いた湯船に身を預ける。ドラマも穏やかな展開を迎えて完全にリラックス状態だった。その時、突然ガラッとドアが開く音がして、緩んでいた意識が一気に引き戻される。心臓が跳ねて、反射的に顔を上げた。
「あっま…。んだこの匂い?」
ヒーロースーツのままの勝己が浴室に充満するこの香りに顔をしかめている。
「…勝己!?」
「んでそんな驚いてんだよ。帰るって連絡入れただろ?」
「嘘?…ごめん、スマホ寝室だ」
「既読つかねぇから寝てんだと思ったけど、部屋いなかったからここかと思って」
「体冷えちゃって…。勝己も今日は早く解決したんだね」
「ああ…、まぁな」
「よかった。あ、ごめん、勝己もシャワー浴びるよね。急いで出てお風呂洗うから待ってて」
「いい。このまま入る」
「でも嫌いな香りでしょ?」
「入ってりゃそのうち慣れんだろ」
「私、出るよ。勝己は寝てないし疲れてるしゆっくり入って」
「出んな、入ってろ」
その場でためらいなくヒーロースーツを脱ぎ捨てて、浴室のシャワーをひねる。勢いよく水音が立ち上がり、湯気が上がった。頭から浴びたシャワーが短い髪を一気に濡らして強い水音だけが響く。昨日は何があったのかは知らない、でも体には新しい傷もなくて少しホッとしながらシャワーが終わるのを待った。
「勝己、タオル」
「ん…」
短く答えて受け取ると、わしわしと荒く髪の水滴を拭き取り、浴槽の縁へと足を運ぶ。
「今かなりぬるい温度かも。追い焚きするね」
「いい。凪が逆上せんだろ」
そう言うと静かに浴槽へ入り互いの距離が詰まる。何も言わないまま後ろから腕が回って、逃げ場のない私はそのまま抱き寄せられた。背中に伝わる体温と肩にかかる息。近い距離に少しだけ心臓が跳ねた。