第4章 HOME 爆豪勝己 / 轟焦凍
轟君は、朝になっても戻らなかった。任務が長引いているのか、事件が頻発しているのか、それは分からないけど…。勝己と付き合っていた頃も、よくあったことだ。
バルコニーに出て、まだ小さな花をつけているブルースターに水をやる。テレビのニュースに耳を傾けると、ヒーローが巻き込まれたような大きな事件はないらしく、ほっと胸を撫で下ろした。
いつも通りに朝食を二人分作り、昼食用のお弁当を冷蔵庫に入れる。
いつもと違うのは、テーブルに置き手紙を添えたことだけ。
そして、いつもとは違う午前10時前。開店前に身を包んだ制服は少し痩せたおかげでまだサイズも合っていた。鏡の前の自分は思っていたほど、ひどい姿ではなかったけど、〝見てみてぇな〟そう笑った轟君の声がどこからか聞こえた気がして、途端に恥ずかしくなった。
「凪ちゃん、今日はよろしくね」
「あ、はい。久しぶりなのでちょっと緊張してますが、よろしくお願いします」
「大丈夫よ。今日は平日だし、ランチの予約が終われば後はゆっくりできるから」
「はい。がんばります」
最初こそ緊張していたものの、すぐにほぐれて声も自然と弾んでいた。バイトをしていた頃からはもう何年も経っているのに、変わらないランチメニューと店の雰囲気に、体はすんなりと動く。
お客さんとのちょっとしたやりとり、子どもたちの笑顔。ずっと遠ざかっていた感覚が少しずつ蘇っていく。ただそれだけのことなのに私には嬉しかった。
ランチのピークが過ぎ、店内が少し落ち着いた頃だった。カウンター越しにコーヒーを運びながら、ふと窓の外に目を向ける。やわらかな秋の日差し。行き交う人の流れ。穏やかな時間に、ふと過る。
今頃どうしてるかな…。
そう描いた先にいたのは勝己ではなかった。赤と白の髪の毛が揺れる、少しはにかんだ笑顔の面影に、自分が一番驚いていた。
「凪ちゃん、お水お願いできる?」
「あ、はい!」
呼ばれて慌てて意識を戻す。グラスに水を注ぎながら小さく息を吐いた。でも、吐く息も唇も頬も全部熱い。好きだと言ってくれた言葉が、また甘く繰り返される。