第4章 HOME 爆豪勝己 / 轟焦凍
「やだ、やめてよ。学生さんとかじゃないんだし…。あ、そうだ、マフィン。コトリカフェってマフィンが絶品だからお土産にもらって帰るね」
「…ああ。じゃあ、それも楽しみにしてる」
「それも…?」
「いや、なんでもねぇ」
その後の言葉を聞きたかったけど、ふいに目を逸らされてしまう。視線の先の時計の針は、すでに20時を回っていた。
「…そろそろ俺も戻らねぇとな」
「そうだね。じゃあ、お夜食、袋に詰めるね」
「ありがとう」
慌ただしく準備を終えて、玄関で轟君を見送る。休みのない連日の任務のせいかその表情には若干の疲れもあった。
「戸締りして先に休んでてくれ」
「うん。轟君もちゃんと仮眠とってね」
「ああ」
私の手には夜食の紙袋。今すぐ渡したくなる衝動と、でも少しだけこの時間が終わってほしくない気持ちが交錯する。
「凪…」
「ん」
「髪、伸びたな」
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、頭を撫でるように手のひらが触れた。
あたたかくて、大きな手がそっと包み込む。
「そうだね…。随分切ってないし、そろそろ切らなくちゃね」
「このままでいいんじゃねぇか?」
優しく視線を送られながら、指先に髪を絡め、そのまま頬を撫でられる。
反射的に視線が重なり、お互いに見つめたまま沈黙が包む。
「…俺は好きだ」
何も考えられず、このままキスをされてしまうのかと思った。
だけど、轟君は〝行ってくる〟と言い残すと、何事もなかったかのように出ていってしまった。
一人取り残された私は、触れられた場所が熱くて、〝好きだ〟の言葉が頭の中で何度もリフレインしていた。