第4章 HOME 爆豪勝己 / 轟焦凍
「轟君と同じで恋も知らない私には何もかも初めてで、大好きで、ずっと一緒にいられるって信じて疑わなかったの。でもね、先輩は留学をしたんだよね。時差もあるし、連絡だって今みたいに自由には取れなくて、ずっと寂しかったのは覚えてる」
轟君は何も言わずに、ただ歩幅を合わせて聞いてくれている。
「会えないのに会いたいって我儘も随分言ったし、困らせた。優しい人だったから、きっと辛かったんだろうな…。だから別れようって言われちゃった。フラれちゃったの、私…」
水平線から差し込む光が、轟君の表情をやわらかく照らしていく。
「勝己に出会うまではもう恋愛なんていいやって思ってたんだけど、ほら、勝己ってお互いを少しずつ知って愛を育むタイプでもないでしょ?あんな強い愛情を向けられたら、過去のことなんて忘れちゃうくらいに、気付いたら全部奪われちゃってた」
「…奪う、か」
「うん…」
「爆豪らしいな」
「そうだね。だから、勝己と別れた私には何もなかったんだと思う」
「そんなことねぇだろ?…もし、爆豪からやり直したいって言ったら、どうすんだ?」
轟君の言葉が優しく刺さる。私だって何度も描いたから。でも勝己はそんなことを言う人じゃない。
「それはないよ。…それにね、私はもう勝己の隣に立つ自信はないんだ」
「爆豪のことを好きなまま、終わらせるのか?」
「勝己のこと、ずっと心配してる。好きって思う時もある。でもね、もう終わったことだから、忘れなきゃ、ダメだと思ってる」
そうすることが正しいとどうしても思ってしまう。私のことなんか忘れて、勝己はずっと強くいて欲しいから。
「無理に忘れる必要はねぇ」
見つめる水平線が涙で歪む。
「あの時から……、ずっと考えてた」
同じ方向を向きながら、少し間をおいてから続ける。
「凪には泣くのを止めるやつじゃなくて、泣いてもいいって言うやつが必要だったんじゃねぇかって」
転ばないようにと繋いだ手にそっと力が籠る。波が寄せては返し、朝日はゆっくりと昇っていく。光が広がって空はやわらかな青が包みはじめた。
まだ全部は前を向けない。それでも…、一人じゃないと思えるだけで、こんなにも違うんだ。