第4章 HOME 爆豪勝己 / 轟焦凍
ナビが浜辺近くの駐車場へと案内し、まだ誰もいない静かな一角に車を停めた。エンジンを切った瞬間、静けさが戻る。ドアを開けると、ひやりとした空気と一緒に潮の香りが流れ込む。
「寒くねぇか?寒かったら俺の上着、着るか?」
「ううん。大丈夫。ありがとう」
空はまだ完全には明るくなっていない。群青と灰色が溶け合っている海と空の境界はまだ曖昧で、波の音だけが規則正しく響いていた。
砂浜へ続く階段を下りて、砂を踏みしめた。昼間はビーチとして賑わっている季節。こんな時間だからか人影はひとつもなくて、ただただ静かな世界が広がっている。
「暗いから足元には気をつけろ」
「うん」
慣れない砂浜の感覚にバランスを崩してしまいそうになる。
ふいにいつの日かの勝己も同じように心配をしてくれた光景と重なった。思い返せば勝己との思い出は、ちゃんと愛されていた。大切にされていた。疑ったことなんて、一度もなかった。
もらったものを何一つ返せずに別れを選んでしまったことが、また静かに胸を刺す。
「…手」
そしてまた、俯きそうになる私に手を差し伸べてくれるのは轟君だった。
「…掴まれ。転ぶ」
薄明かりの中でもはっきりと分かる。優しく微笑む轟君の表情が。
足元はまだ不安定で、簡単に崩れてしまいそうだけど。それでも、その手に触れた瞬間、私はもう一度歩き出せると思えた。