第4章 HOME 爆豪勝己 / 轟焦凍
「ありがとう…。轟君」
自分でも驚くほど素直な言葉だった。その言葉を聞いた轟君が、一瞬動きを止める。
今はこの言葉以外、見つからない。何かを返せるわけじゃないけど、私が前のように戻れたら、心から喜んでくれるんじゃないかってそう思う。轟君は、きっと、そういう人だから。
「今夜は眠れそうか?」
「うん。お風呂の前にお薬も飲んだからそろそろ効いてくると思う」
「今日は早めに休め」
「…そうだね。今日は色々あったしね」
「何かあったらいつでも呼んでくれて構わねぇから」
「轟君はちゃんと眠れる?」
「もう慣れてるから俺のことは気にしなくていい。凪が休んだら俺も寝る」
「うん、分かった。じゃあ今日はもう休むね」
「ああ」
「…おやすみなさい」
「おやすみ」
少しだけ引っかかる名残惜しさを胸に残して、隣の和室の襖を開ける。
「凪…」
「ん?」
「……いや、なんでもねぇ」
「もし不安になったら、ちゃんと声をかけるね」
「ああ…、頼む」
「……ありがとう」
見慣れない和室の天井と畳の香りは、どこかの旅館にでも来たようなそんな感覚だった。虫の声も聞こえない、静かな空間。カーテンの隙間から見える満月に照らされた藍色の闇。
入院するまでは夜はいつも不安だった。何もすることのない時間は、嫌でも勝己の声も温もりも全部思い出してしまうから。でも、今日は少し違う。轟君や冬美さんの優しさが、思考を鈍らせてくれる。
徐々にぼんやりとしていく意識の中で、何も考えなくていい時間に身を委ねた。