第4章 HOME 爆豪勝己 / 轟焦凍
「冷蔵庫の中、何もないね」
「めんつゆと薬味のチューブはある」
「それを何もないっていうんだよ」
「そうか?」
「よく見れば調理器具もあんまりないな…」
「料理は茹でるしかしない。鍋とざるがあれば十分だろ?」
「茹でるだけ?炒めるとか煮るとか蒸すとかは?」
「蕎麦は……、炒めねぇだろ?」
「うん、それだけなんとなく分かった。ないなら持ってくればよかったな。取りに戻ろうかな…」
でも、うちにある調理器具だって勝己との思い出しかない。キッチンに立てば、また強いフラッシュバックが起きないとも限らない。
ここに来たのはその思い出を中和させるためでもある、そのことを忘れちゃいけない。
「じゃあ買うか?」
「え?」
「あって困るもんでもないだろ?」
「でも使わないでしょ?」
「凪が使うなら明日にでも買いに行く」
その言葉はあまりにも自然で、一瞬、胸の奥が揺れた。ここに私がいることを当然のことのような言い方。大げさな優しさでもないのに、ただ寄り添うように生活の中に私を置いてくれる。甘い、とはまた違う、くすぐったい感じ。
「ちゃんと選べるの?」
「自信はねぇ」
「じゃあ、私も行く」
「じゃあ明日な?凪に任せる」
「うん…。じゃあ、お蕎麦、作ろうかな…。キッチン借りるね」
「ああ、好きに使ってくれたらいい」
冬美さんが準備してくれた真新しいエプロンをつける。紐を結びながら顔を上げると、轟君と目があった。何も言わないけど、その表情はどこか柔らかかった。
調理をしながら時々カウンターの向こうへ視線を移す。同じ空間に轟君がいることにまだ慣れないけど、不思議と心地よかった。