第4章 HOME 爆豪勝己 / 轟焦凍
冬美さんからの差し入れを整理し終えた時には19時を回っていた。バルコニーの奥では夕日が沈み、空はゆっくり藍色に変わっている。
襖を開けると、リビングの明かりが目に入る。ダイニングテーブルいっぱいに書類を広げ、轟君は黙々と目を通していた。机の隅には緑谷君がくれた花束が花瓶に飾られて、空調の風に霞草が揺れている。
「落ち着いたか?」
「うん。ありがとう。…ねぇ、轟君」
「どうした?」
「もしかして、これ、轟君が飾ってくれたの?」
「ああ。枯らすともったいねぇからな」
当たり前のことみたいにそう言うけど、私はしばらくその花から目が離せなかった。
「……ありがとう」
小さく呟くと、轟君は書類に目を通しながらふっと口元を緩めた。花がそこにあるだけなのに、ほんの少しだけこの部屋の空気が和らいだ気がした。
「書類、たくさんあるんだね」
「忙しくて整理できてなかった」
「少し疲れてる?」
「いや、こういう作業が苦手なだけだ」
書類を揃えながらそう答える。轟君だって少しは休めるとはいえ、連日の任務に加えて、私のことまで支えてくれていた。
「轟君。夕食、どうしようか?何か買ってこようか?」
「それなら俺が行く」
「いいよいいよ。そのくらいは大丈夫だから」
「無理すんな。急に環境が変わって凪も疲れてるはずだ」
「じゃあ…、何か作ろうか?料理は嫌いじゃないし」
「蕎麦でいいなら、ある」
「お蕎麦?」
「ああ…。俺が好きでいつもストックしてある」
「そうなんだ」
「蕎麦でいいか?」
「いいよ。」
「じゃあ私が作ろうか?」
「いいのか?」
「いいよ。冷蔵庫の中にあるものを使っていいなら」
「ああ。好きに使ってくれ」
「うん」
綺麗に整理されたキッチンの隅の冷蔵庫。扉を開けた瞬間、ひんやりとした空気が頬に触れる。だけど、視界に入ったのは、ほとんど何もない棚だった。
上段にはペットボトルの水が二本。下段には使いかけの調味料と、開封済みの蕎麦つゆ、そしてネギ、それだけ。思わず、そっと扉を閉めたくなるくらい、きれいに整いすぎている。