第4章 HOME 爆豪勝己 / 轟焦凍
玄関が近づくにつれて、心臓の音が早くなっていく。〝大丈夫〟そう何度も言い聞かせながら、ドアの前に鍵を差し込む。家に入るだけなのに手が震えて鍵穴にうまく入らない。カチャ…と外れる音がやけに大きく聞こえた。
ドアを開けると、閉め切っていた部屋の空気が流れてくる。置いたままの靴、床に落ちたままのタオル、全部、あの日のままだった。さっきまではなんともなかったのに、目の前がぐらりと揺れる。
「……っ」
鼻の奥がきゅっと痛んで、呼吸が浅くなる。入らなきゃと思うのに、足が動かない。どうすればいいのかさえ分からない。
「凪?」
後ろから名前を呼ばれて、はっとする。
あの日の自分と轟君の声。泣きながら、震えながら、不安と恐怖に押し潰されていた感覚が、フラッシュみたいに一瞬で蘇る。
「……ごめ……」
自分でも何に謝っているのか分からない。ただ怖い。また、足先が冷たくなって、指先が震える。
どうして…?そう思ったとき、震えそうになる体を包み込むように抱きしめられる。
「大丈夫だ…。無理しなくていい」
その声は低くて落ち着いていた。こんなにも迷惑をかけてしまっているのに責めもせず、ただ受け入れてくれている。
「思い出すよな」
「……うん」
嘘ももう隠し通せなかった。正直に頷くと、視界が少し滲む。
「家に帰るだけなのに、どうして…?…なんで、こんなに怖いのかな」
数秒の沈黙のあと、轟君がゆっくり口を開いた。
「怖いなら……、俺のとこ、来るか?」
表情は見えなかったけど迷いのない声に驚いて顔を上げる。
「落ち着くまででいい。今日は一人にしたくねぇ…。もし、ここにいて辛いなら、その選択肢もある」
胸の奥がぎゅっと痛む。迷惑かもしれない。甘えすぎかもしれない。まだそう思ってしまう自分がいる。でも…。
「……一緒に、いてくれる?」
「ああ」
私の消えそうな声を包んでくれたのは、揺るがない声と腕に籠る優しい力だった。
頬を伝う涙をゆっくりと拭う。
少しの荷物だけを持って、私は玄関の鍵をそっと閉めた。