第4章 HOME 爆豪勝己 / 轟焦凍
病院から出ると夏の空気が肌に触れる。刺すような容赦ない光。入院生活ですっかり冷房に慣れてしまった体には少し重いはずなのに、なぜかその温度が心地いい。
「暑さは平気か?」
「うん、大丈夫。ずっと部屋の中にいたから、眩しいなぁって…。夏だね」
「もう8月だからな」
「月日が流れるのって早いなぁ」
そんな話をしながら駐車場までの短い道を並んで歩く。コンクリートの照り返しが眩しくて、思わず目を細めた。
車のドアを開けてくれる轟君に、小さく〝ありがとう〟と言って助手席に乗り込む。車内はどこか澄んだ空気みたいで、隣にいる轟君そのものみたいだ。何度か乗せてもらっていたはずなのに、ハンドルを握る轟君の横顔に緊張してしまっている自分もいる。
「気分が悪くなったら言ってくれ」
轟君には言えなかったけど、本当は少しだけ不安だった。アパートに戻ったら、あの日の空気が残っている気がして…。
「うん、ありがとう」
そう答えながら、膝の上の花束をぎゅっと抱きしめる。霞草の小さな白が揺れて、甘い香りがふわりと広がった。
車はゆっくりと住宅街へ入っていく。日が傾き始めているのに蝉の声は鳴き止まない。信号待ちをしていても、暑さのせいか屋外に出ている人は疎で、みんな足早に去っていく。変わらない景色に、少しだけ取り残された気がした。
「……もうすぐ着く」
轟君の声に心臓が小さく跳ねる。窓の外に、自分のアパートが見えた瞬間、胸の奥がきゅっと締まった。エンジンが止まり、部屋の玄関先が見えた時、少しだけ現実味が強くなった。
「行けそうか?」
「うん」
問いかけは優しいのに、足がすぐに動かない。気付かれないようにゆっくりと呼吸をしながら、車のドアを開けた。