第4章 HOME 爆豪勝己 / 轟焦凍
「そうだね…。私も、前を向かなきゃね」
自分の言葉が空々しくどこかへ流れていく。どんなに笑顔で誤魔化しても、もう一人の自分はねっとりと絡みつくように囁く。
個性を失った自分に、今更何ができるの?…と。
「強いんだな、凪は」
「そんなことない。全然、そんなことないんだよ…」
もし、私が、轟君が言うように強くいられたら、こんなことにはなっていなかった。
今はもう抱きしめたい勝己はいない。
私を抱きしめてくれた勝己もいない。
私が勝己を傷つけて、そして、自分から手を放した。
「何かあったらいつでも俺を頼ってくれ」
「うん…。ありがとう…」
だからもう轟君の優しさにも応えられない。
応える資格なんてない。
自分を偽って、笑顔を作って、本音を隠して、誰に対しても誠実でいられない私なんて、いっそ消えてしまえばいいのに。
ねぇ……、そうしたらどんなに楽になるだろう。
その言葉が胸の奥でどろりと広がった瞬間、指先の力がふっと抜けた。シンクに落ちたグラスは大きな音を立てて割れ、透明な破片が散らばる。
「……あ」
砕け散ったのは勝己がずっと使っていたグラスだった。
破片は紅茶に濡れてキラキラと光っている。拾い上げようとした破片が冷たく肌を刺し、じわりと血が滲む。
「……っ…」
「大丈夫か?…血がっ、止血しねぇと」
強い口調の轟君の声が、なぜか急に怖くなった。
強い拒絶に小さく息をするだけで体が震え始める。
「………凪?」
割れた破片を手に取ったまま、周りの音が遠のていく。
そして、どこからか〝終わりだ…〟と、勝己の言葉が強く冷たく響いた。
胸を抉るような鋭い苦しさと〝嫌だ〟と叫ぶ感情に、心が悲鳴を上げる。思考が途絶えた次の瞬間、私はガラスの破片を左手の甲に強く突き刺していた。
痛みは感じない。ただ、生暖かい血液が伝って、透明な破片は濡れていく。