第4章 HOME 爆豪勝己 / 轟焦凍
チャームや小物、よく着ていた服、勝己を感じるものは全て箱の中にしまい込む。閉じる瞬間に鼻先に触れた甘い残り香が、切なさを運んだ。
見渡した部屋には残されたものの方が少ないくらいだった。何も考えられない空虚な時間。鳴きっぱなしの蝉の声と、時々聞こえてくる騒音に、気が付けばすっかり日は登っていた。
「もうお昼か…」
そういえば朝食も摂らないままだった。退職してからは特に鈍感になっている。何か口に入れなきゃ…そう思った時、前に轟君からもらったジュースがあったことを思い出した。冷蔵庫のドアポケットにしまったままで、私と同じ、時間も止まったまま。
冷えたジュースを頬に当てる。思えばあの夜もこんな風に轟君の手が触れてくれていた気がする。轟君の優しさと一人ではなかった記憶が甘く胸を噛む。缶のタブを開くとプシュッと炭酸が弾けて、レモンの爽やかな香りが広がった。
澄んだ甘さが喉を通っていく。ただそれだけなのに胸の奥が熱くなる。パチパチと炭酸が弾ける音を聞きながら、静けさに身を委ねる。
そのとき、インターフォンの電子音が部屋に響いた。一瞬、心臓が跳ねたけど、私が期待をしている人ではないことは分かっている。そっと覗いたモニターに映ったのは轟君だった。
「悪い。急に来て…」
扉を開けるとヒーロースーツのままで、伏せ目がちな轟君が立っていた。どこかぎこちなくて緊張した空気もある。
「大丈夫だよ。ずっと家にいたから。どうしたの?」
「昨日、病院へ行ったら凪が退職したと聞かされて…。迷惑だとは分かっていてもじっとしていられなかった」
轟君の言葉には優しさも気遣いも混ざっている。あんなことがあった後だし、当然だ。轟君にまでこんな顔をさせていることに胸の奥がぎゅっと苦しくなる。
「…ごめんね。気にかけてくれて…。今、掃除中なんだけどここじゃ暑いし、よかったら入る?」
「いいのか?」
「轟君こそ時間は大丈夫?」
「ああ。問題ねぇ」
「じゃあ、入って」
ふと勝己の存在が浮かんだけど、もう何も気にする必要はない。大丈夫。轟君の前でも、ちゃんと笑えている。