第5章 親友編
「とにかく別れられたし、よかったと思うんだ。そのときもヴィクトルに助けてもらって――」
あなたは彼の名を口にしたとき、つい頬が緩んでしまった。
ホテルでお世話になっていたことも彼女には白状した。自分が家を出たあとに、駅で彼に声をかけたことも。
すべて怒られることを覚悟である。
しかしセリアの不満はそこではなかった。どうして一番先に自分を頼らなかったのかということだ。
「それはごめん。セリアちゃんも忙しかったし、私もなんか、勢いで飛び込んじゃったところもあるんだ。でもその⋯⋯やっぱり言えなかったよね、見知らぬ男性といきなり親しくなっちゃったとか⋯」
「そうだよねえ。だってあんたらしくないもん、そんなの」
じろっと童顔な顔に見つめられて口をつぐむ。
そう。自分らしくない。
今だって、中々信じられないのだ。あんなに素敵な年上男性と恋人になったことが。
「へへ⋯⋯ごめんごめん。でもさ、今かなり幸せで⋯⋯」
「なにその笑い! あぁ〜なんか心配だよ! 早く会わせなよそのおっさんに!」
「ちょっ、その呼び方やめてくれる!? 彼はねえ、そんな気軽におっさんとか――⋯⋯あっ、ヴィクトルからメールだ!」
あなたはスマホの画面に釘付けになり、途端に色めきだった声を上げた。
まだ七時半なのに、もう仕事が終わったと書いてある。
「うそっ! こんなに早くっ?」
くるりと後ろを向いたあなたは、悔しそうに反応する。
今日に限って彼の夜の時間が空いたらしい。本当だったら今すぐ近くに行って、一緒に夕食でも食べられたかもしれなかった。
このアパートは彼の会社からは車で二十分ぐらいだし、彼の家へは三十分なので、会社に迎えに行くことも出来ただろう。
あなたは再び一人暮らしをする際、あったほうがいいだろうと思って実家に置いていた車を持ってきたのだった。