第4章 彼の家編
「あのね」
「うん」
あなたが切り出すと、彼はまったく眠気などないように切れ長の黒目をばっちりと向けた。
「言うの今度にしようかなと思ったんだけど、それにこんなベッドの中でいいのかな、とも思ったし」
「いつでも大丈夫だよ。君の気持ち聞かせてくれるかい」
誠実に言ってくれる彼に対し、あなたも深呼吸して覚悟した。
少し胸は痛むけれど、もう決めたのだ。
「私、やっぱり一人暮らしすることにしたんだ」
「⋯⋯⋯⋯ッ。⋯⋯⋯⋯そ、そうか。そう⋯だよね。⋯⋯分かっていたんだ、なんとなく」
答えは予想していたものの、明らかに肩をがくりと落とすヴィクトルが見ていてつらい。
「君と離れるのは、本当に身が引き裂かれる思いだけど、⋯⋯こんなの俺のわがままだしな。名無しちゃんの生活は心から応援してるよ」
「⋯⋯ありがとう、ヴィクトル」
あなたは切なくなってきて、彼の胸に抱きつく。
この数週間、暖かさを常にもたらしてくれた彼の腕に抱かれていると、想いがこみあげてきた。
「私もすごく寂しいよ。でも、ちゃんと生活してヴィクトルとまっすぐお付き合いできるようにしたいんだ。⋯⋯ほんとに、寂しいけど。だって毎日こうして一緒に会えたもんね」
互いに仕事があるため会える時間は長くはなかったが、毎日顔を見れた日々が尊く思えた。
「大丈夫。たくさん会えるよ。俺も君に会いに行くし、名無しちゃんもここに来てくれたら嬉しいな」
「うん! 絶対に来るよ。ヴィクトルもうちに来てね。あ、こことはまったく違う普通のアパートだけど⋯」
そう言うと、ぎゅっとハグをされる。
なんだかその時間が長くて、ちょっと心配になるほどだった。
そのぐらい、自分のことを好きになってくれたのだと実感がわき、心が熱く灯っていく。