第4章 彼の家編
あなたは過去のことは気にしていない。
あまり知りたくないタイプだというのはあるが、ヴィクトルに華麗な女性遍歴があっても当然だと思ってしまう。
このことは、むしろ彼のほうが気にしているようにも見えた。
きっと元彼のことで傷ついた場面を目の当たりにしたから、余計にあなたを傷つけたくないと思ってくれているのだろう。
あなたにも自信がないことがある。
本当に自分で大丈夫?という問いだ。
この不安は簡単には消せないだろうけど、もう尋ねるのはやめようと思った。
代わりに自分には伝えられることがあるのだ。
「あのね。ヴィクトルの恋人になれて嬉しいな。こんな自分だけどよろしくね」
彼の腕にきゅっと掴まって、体を寄り添わせる。
すると彼の顔が間近に来た。明かりはわずかだけど、頬は赤く染まって見えた。
「同じだよ、俺もすごく嬉しいんだ。俺のほうがよろしくね、名無しちゃん。君を絶対幸せにするからね⋯⋯」
そんなことを言われたのは初めてで、落ち着こうと思ってた心がどきんと跳ねてしまう。
唇に熱いものが触れ、二人はゆっくり口づけをした。
甘くはまれて、吐息が重なる。
ヴィクトルのキスが深まっていくと、力が抜けてきて、彼の胸板によりかかって抱きかかえられる。
「はあ、はあ⋯⋯ヴィクトル⋯⋯」
「⋯⋯名無しちゃん⋯」
熱いお湯の中で、どんどん体温が上がっていく。
「もうだめぇ⋯」
「んっ? 大丈夫? 上がる?」
「うん⋯」
のぼせたのかと心配され、あなたはヴィクトルと一緒に風呂から出た。
体は全然元気である。でも経験したことのない甘い空気に飲まれてしまい、瞳がとろんとしてくる。
彼にもっとキスされたい。
体にも触れてほしい。
しかしこんなところで駄目だと律して、気遣ってくれる彼にも平気なふりをしたのだった。
きっとこのあと向かうであろうベッドでは、乱れてしまう自分を想像して、また頭を振った。