第4章 彼の家編
「そうなんだ! ヴィクトルがボートやってたなんて本当にすごいな〜。だから肩とか腕も筋肉質で、とっても強そうなんだね。腰はきゅっと引き締まってるし」
「⋯⋯⋯⋯ッ。そうかもしれない。⋯⋯名無しちゃん? そのぐらいで大丈夫だよ。ありがとね」
お礼を言われたが、あなたは裸を見られる恥ずかしさが減ったからか、大胆にも背中にじゃれるように抱きついた。
「気持ちいいー」
「あのね。急にどうしたんだい。君は子供かな? 最初すごいもじもじしてたのに」
「ふふ。子供だもん」
無邪気に言ってぴたっと密着し、そのまま熱を感じた。
彼といると、鼓動の高鳴りと安心が同時に与えられるから不思議だ。
ヴィクトルはしばらくそのままで耐えていた。
濡れた髪をアップにし、あなたは外への扉を抜ける彼についていく。
ひやっと寒い空気が顔に当たった。
でも目の前には、シャワー室と同じ黒色の浴槽があり、湯も張ってあって湯気が出ている。
「わあ、すごい。雰囲気がよすぎる⋯⋯見て、夜空も見えるよ。星もきれい!」
「そうでしょ? 星見ながらゆったり浸かるの最高なんだよ。あ、寒いよね。一緒に入ろう」
ヴィクトルが手を差し出してくれて、二人でお湯に入る。
柵はきちんと立てられていて、空だけが見えるプライベート空間だ。
まるで旅先のような特別感に、あなたはうっとりしてしまった。
浴槽は大人二人でも余るほど十分広いけれど、二人は肩が触れる距離で座っている。
さっきはあんなにはしゃいでいたが、あなたはしっとりした夜の雰囲気に静かになっていた。
「名無しちゃん。その⋯⋯」
「えっ?」
「なんかいかにもな雰囲気だけど、この家に連れてきたのは君が初めてだからね」
ヴィクトルは少し緊張した眼差しで告げた。
信じてもらえるかどうか、不安気な様子である。
「ふふ、そうなの? 本当?」
「本当だよ。笑ってるけど⋯」
彼が距離を詰めてきて、あなたの頬にちゅっとキスをする。それだけで赤くなりそうだったが、あなたは彼の肩に頬を預ける。
お湯も温かいけど、体の火照りはそれだけじゃないと思った。
「じゃあヴィクトルは、五年間も恋人がいなかったの?」
「そうなんだ。もっとだけどね」
彼は苦笑して明かす。仕事が忙しいのもあったけれど、本当に想像よりも一人でいた時間が長いようだった。