第4章 彼の家編
翌週末、さっそく彼はあなたを自宅に誘った。
車で中心市街地へ向かう途中、二人で近くの大型スーパーへ寄る。
今日は家でゆっくり過ごすから、夕食を手作りしようと決まったのだ。
「名無しちゃん。俺のラム料理楽しみにしててね」
「ええっ! ヴィクトル、本当に作るの? 普通こういうのってお呼ばれした私がやるもんじゃ⋯」
「いやいや反対でしょ。俺が君をもてなすんだから」
買物カートを押し、ニッと微笑む姿に胸を撃ち抜かれる。
なんて温かい人なんだろう。こんなに至れり尽くせりでいいのかと思ってくる。
それにあなたは食材を選びながらも、前を歩くヴィクトルの私服に見とれていた。
今日はスーツではなく茶色のブルゾンに首筋が見える薄手のトップスを着ていて、すらっと長い脚が目立つ大人カジュアルの装いだ。
小物はシルバーの腕時計だけで、華美でなくとも彼自身のオーラが放たれている。
男性服は専門ではないが、仕事柄いつもその着こなしには注目してしまい惚れ惚れした。
「あれ、何見てるんだい? チーズ?」
「うんっ。せっかく凄い夕食作ってもらうから、私はデザート作ろうかなと思って。ヴィクトルはティラミス好き?」
乳製品売り場でふと思い浮かんだアイディアを尋ねてみる。
彼は周辺諸国に出張することも多く、中でもイタリアを訪れた時は料理が好きで毎回楽しみなのだと聞いた。
ヴィクトルはその場に立ち止まり、あなたをじっと見下ろしてくる。黒い瞳を感動的に揺らし始めたので心配した。
「大好きだよ! あぁ、今日俺は君の手作りが食べられるの? 最高だな! もう倒れそうだ」
「ちょっ、大げさだよ!」
そんなに喜ばれると思わず、笑顔があふれた彼を見てあなたも笑ってしまった。