第3章 ジムにて
あなたはじっと話を聞いていた。彼の熱い思いと決意が迫ってくる。
ヴィクトルは仕事に邁進してきたが、一方で自分らしさをどこかに置き去りにしてしまったと告白した。
それに気づき取り戻したいと思ったのは、他ならぬあなたとの出会いだったのだと、彼は教えてくれたのだった。
「⋯⋯私はもうヴィクトルのこと、たくさん知ってるよ。外でも本当に完璧で素敵だし、きっと仕事中も惚れ惚れしちゃうんだろうなって想像できる。でも、二人でいるときも大好きだな。とくにいきなり大声で笑うところ。あと、クールな風に見えてすごい心配性なところも」
「ははっ。ありがとう。それは君にだけだけどね。⋯⋯ほんとに名無しちゃんにだけだよ。俺は本来冷たいと思う」
「冷たくないよ。温かい人だよ、ヴィクトルは。だからこんなに惹かれたんだ」
あなたは膝で立ちヴィクトルを抱きしめる。
自分の胸に招き、黒髪の後ろを撫でていると、もっと繋がりが深まった気がした。
「⋯⋯ああ、君と離れるのが本当に堪える。本当に出ていってしまうのかい? 俺の家においでよ。一緒に住もう? ⋯⋯ダメ?」
目線が下な大人の彼に願われると、決心が揺らぐ。
「で、でも⋯⋯もう決めたから」
「そんな。君は結構頑固だな。⋯⋯分かったぞ、じゃあ一回うちに遊びに来るのはどうだい? ねっ? それで決めよう」
本当に離れたくない様子だ。
その世にも珍しい必死さに、あなたは思わず笑みがこぼれる。
「ヴィクトルの家に行ってもいいの?」
「もちろん。広いから君のスペースは全然あるよ。⋯⋯まあ一緒に過ごすなら俺は狭いほうがいいけどね」
あなたが家に来てくれそうだと分かれば、途端に彼は余裕を漂わせウインクする。
これからどうなることやら、また分からなくなった。