第3章 ジムにて
「いて欲しいに決まってるだろう? 俺のほうが、君にはふさわしくないよなって毎日悩んでるのに。⋯⋯でもそれ以上に一緒にいたいからさ。ごめんね、俺しつこくて」
「ううん⋯っ」
彼も悩んでるんだ⋯⋯。そんなことを明かされたのは初めてだった。
「本当に私でいいの? 私なにも持ってないよ。ただのブティックの店員だし、あっ、お店は素晴らしくて誇りはあるけど、でも、給料もそんなにないし。家もまだ決まってないし」
だんだん言ってて悲しくなってくるが、自分も弱みをさらけ出す。すると目の前のヴィクトルは、眉が優しく下がってきて、なんだか愛情深い顔つきになった。
「そんなこと気にしてるの。今言ったことのどれも、君の素晴らしさを損なうものじゃないだろう。俺は毎日仕事に真摯に取り組む君がすごいなって思うよ。それに自分がここに帰ってきて、おかえりって笑顔で言ってくれるの見て、生きててよかったって思うぐらいの存在なんだよ?」
「ええ! それは言い過ぎだよ!」
こちらが仰天するとヴィクトルはくすくすと笑う。
褒められすぎて恥ずかしくなったが、こんな自分でも大丈夫なんだって、彼の嬉しそうな顔を見ているとだんだん気分が和らいできた。
あなたは自分からヴィクトルの胸にもぐりこむ。
「どうしたの? 可愛いな」
「⋯⋯一緒にいたいよ。ヴィクトル」
抱きかかえられ目を閉じたまま、勇気を出して告げた。
彼は一瞬黙り、あなたの頬に手を添える。
「本当? じゃあ俺の⋯⋯恋人になってくれる?」
互いの瞳に吸い込まれるように、見つめ合った。
あなたがすべてを受け入れて頷くと、彼は喜びに満ちあふれる。
「ああ、嬉しいな。信じられないぐらいだ。ありがとう、名無しちゃん」
「ん、んんっ、私も⋯⋯!」
しばらく熱い抱擁とキスを受けて、体がふらふらになった。
大きな体に抱き込まれ、離してもらえそうにない。
本当に、恋人になっちゃったんだ。
気持ちがまっすぐ繋がって、ほかを超越してしまった感覚がある。
問題は色々残ってそうだけど――。
「あっ!!」
「⋯⋯えっ? なにっ?」
あなたの大声にヴィクトルはびくりと肩を揺らした。
まだ大事なことを言っていない。
そもそもその話を先にしようと思っていたのだが。