第3章 ジムにて
「⋯⋯そうなの?」
「ああ、本当だよ。俺はあんまり心を開くタイプじゃないからね。軽く見えるかもしれないけど」
彼が苦笑する姿は余裕のある大人そのもので、少しじれったい思いがする。
「じゃあどうしてあの時、私のことは受け入れてくれたの?」
彼は一瞬言葉に詰まる。
こうしてはっきりと核心に触れたことはなかった。
「それはね、名無しちゃん。君を一目見て、可愛いなと思ったのは事実だ。けどそれ以上に、俺を不安げに見上げてきたから、無性に気になったんだよな。⋯⋯慣れてるのか慣れてないのか、分からないというか。一瞬のことだったけれど、君の内面に強く興味を惹かれたんだよ」
ヴィクトルは当時のことを真っ直ぐに答えてくれた。
自分で聞いておいて気恥ずかしくなり、あなたは口ごもる。
すると彼は頬を優しく撫で、気持ちをなだめようとしてくれた。
「今となっては君の不安も分かったけれどね。その後のことは、知っている通りさ。どんどん君のことが好きになって、もうこんな状態だ。⋯⋯それにさっきの話だけど、俺のことは心配することないよ。君に出会ってから、そういう所にも行かなくなったんだ」
「行ってもいいよ、別に。仕事ならしょうがないし⋯」
あなたは気持ちとは裏腹なことを言う。自分は若いからそれだけで追いつけないし、理解がある人間だと背伸びしたかったのだ。
しかしヴィクトルは悲しみを隠さなかった。
ふたたび彼の胸にぎゅうっと抱き寄せられる。
「そんなこと言わないで、名無しちゃん。もっと俺を束縛してくれよ」
「⋯⋯ええっ。無理だよそんなの。私なんか、ヴィクトルのそばにいていいのかなって思うんだもん」
抱擁に包まれ、弱い心が顔を出す。
根本はそれだった。彼のそばにいていい自信がなくて、ずっと踏みとどまっていたのだ。