第3章 ジムにて
「名無しちゃん、待たせちゃってごめんね」
ゆっくり近づいてきたヴィクトルに、あなたはほっとしたものの、見知らぬ外国人男性にナンパされていた場面を見られ気まずさが襲った。
「やあ、こんにちは」
彼はその男性にも薄っすら笑みを浮かべて挨拶する。
「やあどうも。もしかして――」
「そうなんだ。彼女は俺のガールフレンドなんだよね」
ヴィクトルが瞳を細めながらもはっきりと言うと、男性は額に手を打って大げさにリアクションした。
「あぁ! やっぱり、たった今気付いたよ! やたらハンサムな男性が近づいてきたなと思ってさ。いやぁごめん。素敵な子だったからつい声をかけちゃったんだ」
「わかるよ。一人にした俺が悪いよな。ごめんね、名無しちゃん」
ヴィクトルに腰をそっと抱き寄せられ、優しい顔つきだったが痛恨の眼差しで見つめられた。
「ううんっ、大丈夫大丈夫」
その後も二人の会話をどきどきしながら聞いていると、外国人男性はさらりと名乗り、同じようにしたヴィクトルと握手をかわしていた。
この若い男性はベルギー出身で男女含めた友人らと旅行をしているらしく、世間話をした後こんなことを言ってきた。
「この街夜も活気があってすごく気に入ってるんだ。そうだ、声かけちゃったお詫びに二人とも今夜バーに来ない? 皆で飲むんだけど、ご馳走するよ」
マッチョな男性は明るくフレンドリーに誘ってくれて、あなたはどうしようと焦る。
ヴィクトルは社交的だし、友好的に喋っているし、もしやと思ったのだ。対して自分はよく知らない人の間に入っていくのは苦手だった。
「それはいいお誘いだね、ありがとう。でも今日は彼女と二人きりで過ごしたいんだ。特別な滞在だからさ」
「そうか、ちょっと残念だけど、凄く素敵なお話だ。二人に会えてよかったよ、ゆっくり楽しんでね!」
「ああ、君たちもね。旅行がいいものになるといいな」
二人は最後まで和やかに話し、あなたにも挨拶をした男性は離れて別の場所に行った。