第2章 元彼編
「俺は、君のことが本気だ。名無しちゃんのことが好きで、ここのところは毎日、君のことばかり考えてしまってる。⋯⋯あいつが言ったように、こんな浮ついた見た目の、おっさんだけれどね。⋯⋯でも本気で⋯⋯ああ、自分で言ってて情けないな――」
ヴィクトルは普段、もっとキザで完璧な男性のはずだ。少なくとも初めて駅で声をかけたときは、そうだった。
しかし今は、あなたを前にしてまるで初めての恋のごとく、もがき、真剣に気持ちを伝えようとしている。
「こんな俺だけど、君に交際を申し込みたい。だめだろうか⋯⋯?」
あなたは彼の前で、深く聞き入りながらも、立ち尽くしていた。
そんな様子にヴィクトルも段々表情に不安が入り混じる。
「あの⋯⋯⋯⋯」
あなたは言いかけたが、なんと話し始めていいか迷っていた。色々な思いがよぎる。
そのひとつひとつが膨らみすぎて、どう言葉にすればいいか頭がパンクしてしまったのだ。
そんな状態に、ヴィクトルは動揺したのかもしれない。きっと経験豊富な彼が直面したことのない時間だったのだろう。
「わかった。ごめん、急にこんなことを言って。⋯⋯そうだよな。あんな別れ話を元彼としたあとに、たたみかけるように⋯⋯本当に俺は馬鹿だ。自分のことしか考えていない」
「い、いや⋯⋯ちが――」
「悪かった、名無しちゃん! そうだ、俺の気持ちのことは頭の隅にでも考えておいてくれないか? 返事は急がないよ。⋯⋯俺のことを見て、決めてもらえたら嬉しいな。君にもっと好きになってもらえるように頑張るからさ」
ヴィクトルにそう表明されて、あなたは瞬きをする。
しかし彼の黒い瞳は本気で見つめてきて、固く決意したようだった。