第2章 元彼編
「やめて! お願い、彼には何もしないで。⋯⋯マティアス、もう終わりだよ。私達終わったの⋯⋯」
「なんで⋯⋯? 俺ら三年も一緒にいたよな? 浮気したことなら、謝るって。本気じゃねえから⋯⋯許してくれよ、名無し⋯⋯」
彼は手を止めて、弱々しい声であなたに振り返った。
ようやくあなたの強固な気持ちを動かせないと悟ったのか、頭をうなだれる。
「ううん。それは関係ない。私の気持ちは、とっくに冷めてたんだ」
「⋯⋯はっ。この男が本当に好きなのか? やめとけよ⋯⋯お前に本気になるわけねえじゃん。ぜってえただの遊び人だよ、こんなやつ⋯⋯」
ヴィクトルはその言葉に表情をかなり険しくさせたが、じっと耐えていた。あなたが毅然とした態度でマティアスを見つめていたからだ。
「私とヴィクトルのことは、あなたに関係ないから」
「⋯⋯へえ。⋯⋯でもさ、残念だったな、おっさん。こいつセックス出来ないでしょ? それでもいいんだ」
薄ら笑いで言われた台詞に、あなたは顔を羞恥で染める。自然と手が震えてきた。
それはもう過去の話であったが、長年苦しんできた問題で、元彼の口から出たことにより、体が動かなくなった。
「お前さ、一発ぶん殴ってもいい?」
ヴィクトルは激怒していた。呼気を荒くしてマティアスの胸ぐらを掴む。
相手は馬鹿にしたように無抵抗だったが、あなたは彼の腕を握ってやめさせた。
「もういいの。行こう、ヴィクトル」
「でも名無しちゃん――」
あなたはヴィクトルの手を引いて、トランクをもって部屋を出ていこうとする。
自分が性の問題を克服したことは、元彼には告げなくていい。きっと彼のプライドはもっと折れるだろうし、自分は惨めに思われたままでいいと思った。
彼を痛めつけるのが目的ではなく、ただ決別したいのだ。