第2章 元彼編
「⋯⋯もう好きじゃないの。別れて」
あなたはこうなったことに対する罪悪感がいまだ消えぬ中、瞳を伏せる。
するとマティアスは、あなたを抱きしめようとした。
「やめて⋯⋯!」
「やめねえよ。冗談だろ? 俺たちが別れるとか、そんな馬鹿なこと――」
あなたが捕まえてくる腕から逃げようとした時、アパートのベルが大きく鳴った。
二人はしんと静まり、マティアスは舌打ちをして玄関へ向かう。
一方で、心臓がばくばくとしていた。もしかして、彼が様子を見に来たのかもしれない。
急いでマティアスを追うと、すでに二人は玄関先で対峙していた。
「はい? どなたですか。悪いんですが、今立て込んでるんですよ」
「こんばんは。君が彼女の前の彼氏かな? マティアス君だったよね」
ヴィクトルの低く上品な声が届き、元彼の「⋯⋯ああ? あんた誰だよ」という明らかに苛立った声が響く。
あなたはこんな状況をまったく望んでなかったが、ヴィクトルがちらりとこちらを見て、安心させるように微笑んでくれたから、体の力が抜けそうになった。
「俺はヴィクトル・ヘイズっていうんだ。#名無し#ちゃんの知り合いだよ。ちょっと話してもいいかな」
「知り合いだ⋯⋯?」
明らかに何かを感じ取ったマティアスは、ヴィクトルに答えずに廊下を戻ってきて、あなたをじろじろと見やる。
「⋯⋯はははっ。お前、マジで? まさかこのおっさんと一緒にいたの? うそだろ。お前もやることやってんだな!」
彼は目の前でひときしり爆笑したあと、あなたを不愉快そうに睨みつけた。
「そういうことかよ。お前男いたんだろ。だから急に別れるとか言って出てったわけ。全然気づかなかったわ」
「違う! 彼と出会ったのはあなたと別れたあとだから!」
「どっちでもいいわ。そんで俺のことは捨てるわけ? 最低だな」
マティアスはあなたの前へ立って、わざと傷ついた風な哀愁を漂わせた。しかし彼の視線は後ろに立つ、長身のスーツ男に強く向けられる。