第2章 元彼編
ヴィクトルと約束した日の夜。あなたは彼の部屋のベッドに寝転んでいた。
このホテルに帰ってきて安心する。
自宅のアパートは近い内に引っ越すつもりだ。心配してくれた彼のためにも、新しい住まいを探して、きちんと生活していこうと決意していた。
「今日は少し遅めだって言ってたなぁ⋯」
帰宅後シャワーを借りたあなたは、買ってきたキャミソールとハーフパンツに着替え、薄いカーディガンを羽織っている。
一人で彼を待つのは初めてで、不思議な気分だ。
でもここにいると勝手に情事を思い出し、どきどきしてしまった。
「⋯⋯だめだめ、落ち着かないと」
ぼんやりしていると、段々眠気が襲ってきて、あなたはそのまま寝てしまった。
一時間後ヴィクトルが帰ってきて、彼があなたを見つけて微笑んだことも、そのあとこっそり浴室に入って戻ってきたことにも、まったく気づかなかった。
「名無しちゃん。寝ちゃってる?」
「⋯⋯⋯⋯んっ? わあっ!⋯⋯ごめん、起きてたかったのに」
あなたは半目で飛び起きた。
カーテンの外は暗く、部屋の時計は夜十一時になっている。
「おかえりなさい、ヴィクトル」
「ただいま、名無しちゃん。うーんいいねえ、こういうの」
にっこりと嬉しそうな彼は、薄く日に焼けた半裸でボクサーパンツ姿だ。そんな逞しい男の人がいきなりベッドに入ってきて焦る。
「あの、寝る?」
「うん。寝ようか」
さらりと言ったヴィクトルは、横向きのあなたの腰に、後ろから手を回して抱き寄せた。
ぎゅっと密着して寝る体勢だ。
緊張したあなたは大人しくしながら話題を探す。
「あのね。ヴィクトルが帰って来るところ見たかったな。その、仕事終わりの感じ、素敵で⋯⋯」
うまく説明ができなくて困った。
とにかく彼の帰宅の場面も捉えたかったのだ。
「そうかい? そんなこと言われると嬉しいなぁ。⋯⋯服をちゃんと着てたほうがよかった?」
「⋯⋯えっ!」
彼の問いがいちいちやらしく響く。
背にすぐ胸板を感じて意識してしまう。
「なんだか呼吸が荒いな。心配だよ」
「だっ、だって近いから」
あなたは集中に欠けていた。
今から眠るつもりなんだと自覚しながらも、くっつきすぎではと。
彼にとってはこれが普通なのだろうか。
――いや、やっぱり違ったようだった。