第2章 元彼編
彼のほうこそ、なんだか迷いのある、苦悩に満ちた顔つきであなたを見つめていた。
「正直に言うと、俺はそいつに君を会わせたくない。これは俺の勝手な思いだよ。でも、そんな最低な男のもとになんか行かないでくれ、名無しちゃん」
彼はまだ言い足りなさそうだったが、譲れないという思いをにじませた意固地な表情で、あなたに乞い願う。
「ね、約束して。どうしても一度帰るなら、俺も一緒に行くからさ。一人で行っちゃだめだ。車で送るから」
「⋯⋯うう、でも⋯⋯」
「頼む。お願いだよ名無しちゃん」
彼の瞳は水面下で燃え上がっていた。静かな怒りを制御しているように。
「わかったよ。でも本当にいいの? 明後日、帰ろうと思ったんだ。彼が⋯⋯マティアスが定期的な飲み会の日で、絶対にいないから。⋯⋯でも、ヴィクトルが一緒に来てくれるなら、一応車の中で待っててほしいな。そうしたら万が一でも会わないだろうし」
あなたは本気で考えてくれている彼に、誠心誠意説明した。
本当に、あの男にだけは、ヴィクトルを会わせたくない。
昨日の様子だと、逆上して何を言い出すか分からないからだ。
「そう⋯⋯わかった。じゃあそうしよう。俺のお願い聞いてくれてありがとうね」
「ううん。お礼を言うのは私のほうだよ。⋯⋯ありがとう、ヴィクトル。心配かけてごめんね」
彼はあなたをほっとした様子で抱きしめたあと、首をふって更に安心させようとしていた。