第2章 元彼編
「なんだ、残念だな。誘ってくれたのかと思ったのに」
「誘ってないってばっ」
意思とは反対に素直になれなかった。本当のセックスの経験がなさすぎて、この大人な男性にどう反応していいか混乱する。
きっと、からかってるだけだろうし。
彼は困っている自分を助けてくれただけなのだからと。
そんなことを考え出すと、あなたは元彼のことが頭をよぎった。
だんだんと気持ちが重くなってくる。
そんなあなたの表情の変化に、ヴィクトルも気がかりな様子だった。
「名無しちゃん。昨日のことなんだけど⋯⋯聞いてもいいかな、お家で何かあったのか。君は前の彼氏と暮らしていたんだよね?」
核心を突かれて、鼓動が速くなっていく。
あなたはためらいがちに認めた。
「そうなんだ。昨日家に服を取りに帰ったら、まだ彼がいて。知らない女の人もいた⋯⋯それで、言い合いになって⋯⋯落ち込んで」
あなたは恥ずかしさや情けなさから、マティアスに言われたことを明かせなかった。
深く傷ついたが、どうしようもない事実だったからだ。
それに、ヴィクトルにはまったく関係のないことで、彼は優しい人だし、こんな問題に巻き込まなくていいと思った。
しかしヴィクトルは、話を聞いて大体の予想がついたようだ。
彼は普段なるべく愛想のよい表情を浮かべているが、今だけは、不快感で眉根を寄せていた。
「どうしようもない奴だな、そいつは。名無しちゃん。俺は、君にしばらく帰るのはやめて、ここにいてほしいと思ってる」
彼は真剣に手を握って伝えてきた。
「あ⋯⋯でも、迷惑だよ。この何日も、お世話になっちゃってるし」
「迷惑なわけないでしょう? 俺は別に何もしてないよ。君に安全なところにいて欲しいだけなんだ」
あなたは彼の優しさが身に沁みていく。
ありがたいし、本当はヴィクトルとずっと一緒にいたい。
甘えて、飛び込んでしまいたい。
でも、もうすでにたくさんのものをくれたのに、あまりに都合がいい気がした。
「⋯⋯ああ、そんな顔しないで。今迷ってるだろう。すごく人に気を使う子だって、段々分かってきたよ」
「えっ?」
あなたは指摘されて、ぱっと顔を上げる。