第2章 元彼編
「ヴィクトル、用意しないと⋯⋯っ」
「うーん、そうだな。ひげ剃るか。ごめん、今当たって痛かったでしょ」
苦笑した彼は、まだ名残惜しそうだったが朝の準備に取りかかることにした。
ヴィクトルは普段八時に出勤し、あなたはブティックの勤務が十時からでゆっくりだ。
こうして朝を過ごすのは二回目だが、新鮮で嬉しくなった。
あなたは、洗面所で顎にフォームをつけ真剣に髭を剃っている彼をのぞいた。
なんだか部屋の中でも、彼のことが気になった。
今更だけど、どんな人なのかもっと知りたくなる。
すると彼はくるっと振り返り、終わった肌を擦りながら尋ねた。
「名無しちゃん。体は大丈夫?」
「えっ⋯⋯体?」
「そう。腰のあたり」
すぐには分からなかったけど、ヴィクトルの意味深な目つきにあなたは赤くなった。
「大丈夫だよ。少し違和感はあるけど、ちゃんと動ける。ヴィクトルが気をつけてくれたから」
あなたは恥じらいながら彼の正面に立ち、「ありがとう」と言って抱きついた。
ヴィクトルは一瞬驚いたようだが、すぐにあなたを抱えて嬉しそうに微笑んでくる。
「それはよかった。でも礼を言う事じゃないけどね。俺も君を抱きたかったんだから」
ストレートに言われて視線が彷徨ってしまった。彼に対し、好きな気持ちがわく。本気になったりしたらダメだとわかっているけれど。
「ヴィクトル⋯」
「ん? ⋯⋯どうしたの?」
彼は期待ににじむ甘い声音で尋ねたが、あなたはこんなことを言った。
「その⋯⋯しばらくしなかったら、塞がっちゃうかな?」
彼は一瞬考えたように目を丸くしたが、いきなり吹き出す。
「はっはっは!」
「もう! どうして笑うの?」
本気ではないけど憤慨するあなたの珍しい怒り顔に、彼は焦ったようだ。手を下ろしてぎゅっと抱きしめてくる。
「そうだな、いやごめん。笑い事じゃない。あまりに可愛らしく思えて――。ああ許してくれ。そうだよね、不安に思うのも無理はないさ。でも大丈夫、塞がったりはしないよ」
「⋯⋯本当?」
「うん。まあ俺は医者じゃないから、大きなことは言えないけれどね。一度出来たら、もう大丈夫だと思うよ。⋯⋯それとも毎日する?」
彼は問いをわざと甘い囁きにのせてきた。
あなたは言葉が引っ込んでしまい、細かに首をふる。