第2章 元彼編
彼はその後、ウイスキーの入ったグラスを二杯空にして、ベッドへ寝転んだ。
私的な時間には遠ざけているスマホをわざわざ手にし、メッセージ画面を開く。
「うーん⋯⋯仕事よりも頭を使うな」
彼はあなたに何か送りたかったのだが、どういう文面でも、四十の男からのメッセージなど寒々しく感じた。
悩んだ末に、ヴィクトルはこう打った。
今の自分の正直な思いだ。
『名無しちゃん、大丈夫? ちゃんと眠れてるかな。俺は隣に君がいたらいいなって思ってる』
送ってしまった文を見て、彼は枕に横顔をうずめた。
自分は何をやっているんだ。未練たらしいと。
苦い思いでうずうずとしていると、数分でスマホに通知が入る。
ヴィクトルは飛び起きて肘をつき、画面を食い入るように見つめた。
そこにあったのはあなたからの返信で、こう綴られている。
『私も。すぐにヴィクトルに会いたい。抱いて欲しいよ』
彼は切れ長の瞳を大きく見開き、ベッドから全身を起こす。
「ああ、え? ど、どうする」
彼らしからぬ右往左往ぶりで、ひとまず服を手に掴んだ。身だしなみを整えながら、ヴィクトルはすぐにアプリからあなたに電話をかける。
遠い場所にいるあなたはびっくりして電話に出た。
『もしもし、大丈夫かい? #名無し#ちゃん』
『⋯⋯⋯⋯あっ、うん』
ヴィクトルは熱い文面とは異なるあなたのテンションに、いささか驚きを受けていたが、冷静に話をした。
『今どこにいるの? すぐ迎えに行くよ。――あっ、ごめん、俺酒飲んでた、そうだタクシーでいくから――』
焦る彼の声に、あなたは電話の向こうで遠慮をする。
『ううん、大丈夫だよ』
『大丈夫じゃないでしょう、いいから教えて名無しちゃん、心配なんだ』
もう午前十二時を過ぎていて、あなたは自分でホテルに向かうと言ったが、彼は賛成しなかった。
タクシーを呼び、ホテルのロビーから出て行ってあなたを迎えに行く。
ヴィクトルの気持ちははやり、あなたを早く抱きしめたいという思いでいっぱいになる。
彼の情動は高鳴る鼓動をいっそう速めていた。