第1章 出会い編
それから二人は別れる。
ヴィクトルは仕事へ向かう際、あなたにカードキーを渡した。フロントへ伝えておくからここへ自由に入っていいと言ってくれたのだ。
そして必要なかったら、そのまま返してくれということなのだろう。
「⋯⋯はあ。私も準備しよう」
あなたは明るい光が差し込む高層階を見渡し、服を着替えた。一人でここにいると、より場違い感に包まれる。
彼は経営コンサルタントの会社で取締役をしているという。自分の身近な世界にはまったくいないような人だ。
今は仕事が忙しく、会社に徒歩で通えるこのホテルに滞在しているらしいが。
「いったい月いくらかかるんだろう。すごいなぁ⋯⋯」
高級な備品を眺めてため息をつく。
あなたは彼にも自分の仕事を伝えた。高校卒業後に服飾の専門学校に入り、そのあとはブティックで働いていると。
母の友人女性が経営する店に、雇ってもらっているのだ。
家族で懇意にしている人生の先輩のような人で、ゆくゆくは店を任せるなんてわりと本気で言われていた。
あなたはまだまだ経験を積むために邁進しているが、私生活では今みたいに悩みを抱えている。
もちろんそれは家族の誰も知らない。
見知らぬ中年男性と突発的なことをしたのも、知られれば大変なことになると分かっている。
自分も成人した社会人で、自己責任とはいえ。
それだけセックスがまともに出来ない悩みは大きく、切羽詰まっていたのだった。