第20章 【九十九】八百比丘尼と呪胎九相図
「で、まずは八重ちゃんについて聞かせてもらおうか」
薨星宮の結界内でコタツを囲んで3人、無言の時間が続いていた。
それが気まずい訳ではないが、私から話題を振ってやることにした。
八重ちゃんの名前が出て、今まで無表情だった脹相の眉がピクリと動く。
天元はようやく口を開く気になったようで、一度息を吐いた。
「そうだな。半分はその為に呪胎九相図には残ってもらったようなものだからな」
「何…?」
「お前は八重の過去をどれだけ知っている?」
「…八重が俺たちの母を羂索に引き合わせ、生まれた俺たちを封印に導いた、とだけ聞いている。それ以上の詳しいことは聞いていない」
「どうして訊かない?」
「それは……その話をすると八重が苦しむ」
「……そうか」
「八重は全てをお前に話している訳ではない。お前も全ては知らなくていいと思っているようだが、まずは知ってもらわなければならない。お前と八重に結ばれた因果を」
そうして語られる八重ちゃんの過去。
呪胎九相図の誕生に至るまでの経緯。
誕生してからの経緯。
封印されるまでの経緯。
封印されてからの経緯。
彼女に秘められた力の存在とそれの考察。
彼女の今後の向かう先まで。
それは私が想像していたものよりも何倍も惨たらしい事実。
不老不死の彼女のゴールは決められている。
無理やり舞台に上げられて、最後は大いなる何かに飲み込まれるためだけに生かされている。
それはまるでかつて私がそうだった星漿体のようだ。
否、それよりもタチが悪い。
私はそれを拒絶できた。
しかし、彼女は違う。
それ自体を拒絶できる訳はなく、自ら変わることを拒絶しながら、自らの選択で削ぎ生きながら、緩やかに消滅というゴールへと向かわされる。
何が〝八百比丘尼〟だ。
何が〝海の寵児〟だ。
耳障りの良い言葉に置き換えやがって。
人はそれを〝贄〟と呼ぶんだよ。
くそ、どうして今なんだ?
彼女と出会うのがもっと早ければ、何かしてやれたことがあったかもしれないのに…
気付けばコタツの中で震えるほど拳を握りしめていた。
向かいを見れば脹相も鬼の形相をしている。
きっと彼の怒りのベクトルは私と同じではない。
しかし、同じ感情があればいい。
脹相、悪いが私の遺志は君に託すぞ。