第19章 耐え忍ぶ
一度、脹相の気配が一気に薄くなり八重は一瞬焦ったが、前のように弱くなっただけで一度薨星宮に入ったのだとわかり息をつく。
どのような戦いになっているのか八重には想像もつかない。
ただ、まだ脹相の気持ちが臨戦態勢であることから戦いは終わっていないと悟った。
心臓が破裂しそうなほど早く打ち、息が止まりそうなほど喉が締め付けられる。
次の一瞬がどうなるかもわからないので、脹相の気配に気を逆立て、時間だけが過ぎていく。
(……怖い…)
震える手と手を握りしめ、必死に抑えようとするが今度は肩が震え、全身が震え出す。
そうしている内に再び脹相の気配が浮上して戦闘が始まる。
今回は痛みが一方的ではない。
もしかすると九十九と共闘しているのかもしれない。
しかし、それでも届かない。
重い痛みが脹相を襲っている。
そして遂には―――脹相の強い覚悟。
それは死ぬほどの覚悟ではなく。
――死ぬ為の覚悟――
「ダメ!やめて!」
思わず叫ぶ。
全身から血の気が引く。
しかし、急に脹相の緊張の糸が切れた。
戸惑いの中で急に放り出された感覚。
(…え……?どういうこと……?)
今まで霞がかかっているようだった感覚が明瞭になる。
脹相はもう薨星宮にいない。
何故だかわからないが地上にいる。
八重はすぐに部屋を出た。
薨星宮に向かう訳では無い、と自分で自分に言い訳をしながら、急いで脹相の気配の方へ向かう。
脹相は高専校舎近くの外にいた。
薨星宮で見せてもらった獄門疆・裏と一冊のノートを抱きしめるようにうずくまり、「何故だ……天元……九十九……どうして……」とうわ言のように呟いて、泣いている。
「脹相!」
八重が呼びかけてもこちらには反応もしない。
とりあえずここにいるのは得策ではないと思い、「脹相、校舎の中に入りましょう」と脹相の大きな身体に肩を貸して無理やり立たせる。
自力で立つことも歩くことも儘ならない脹相を支えて移動するにはかなり体格差があり、八重には重すぎる。
崩れそうに震える膝を歯を食いしばって立たせる。
引きずるように移動する八重は、150年前に九相図を抱え、重くなった自分の身体を引きずり天元の元へ向かった時のことを思い出していた。
(あの時に比べたら全然軽い…)
そう自分に言い聞かせて、校舎へ向かった。