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【呪術廻戦】誰も知らない

第19章 耐え忍ぶ


脹相の涙が引いても八重の胸を焼く炎はしばらく消えなかった。
燃え尽きてグズグズになった心が現実に戻ってきた時。

「…あ、ミミズ人間、観なきゃ」

空っぽの頭でポツリと呟いた。
そして、虎杖が出ていく前にテーブルに出していった3枚の『ミミズ人間』のDVDから真ん中の1枚を引き出す。
虎杖が「まだ見れる」と言っていた『ミミズ人間2』のDVD。
ケースを開けて初めて見るDVDディスクを手にテレビとその周辺をしばらく観察する。
これだろうと当たりをつけた機械にディスクを入れればテレビ画面が勝手に切り替わり映像が流れ始める。
2作目から見始め、さらに聞いたこともない外国語の映画の内容を理解するということはできず、八重はただぼんやりと眺めていた。
ただ、言葉は分からなくとも表情や感情の機微を追ってしまう。
作り物の世界の話だと頭で分かっていても恐怖に慄き、叫び、泣く様は現実味を感じる。
作り物を嘘とは思わない。
人間はこうやって演じる。
その人の中にないものは表には出てこない。
そう思って見ていると内容が分からなくても見ていられた。
2時間弱の再生が終わるとすぐにもう一度再生した。
今度は画面の字幕を見る余裕があった。
感情と内容が繋がる。
それを立て続けに10回ほど続けた。
虎杖が「見れる」と言ったのがよく分かる。
ミミズ人間という設定は10回以上見ても理解はできないが、完璧を求める者が最終的に全てを投げ出すに至るまでの感情は目を引く。
きっとこの話を書いた人や演じている人は大なり小なり同じような体験をしているのではないか、と八重は思った。
そして、自分はどうだと考える。

(…私は完璧ではないし、それを求めてはいないけれど)

八重は目を閉じて想像してみる。
鍵も掛けられていないあの扉から何の為でもなく出ることは出来るだろうか?
今ある全てを投げ出すことは出来るだろうか?
八百比丘尼も、九相図も、過去の選択の過ちも。
自ら投げ出すことができるものを全て。
全て無くして、真っ暗な闇になった時、そこにあるものはなんだろう。
闇を見つめる。
自分の中に残るものはあるだろうか。
闇に揺らめく灯り。
それに向かって手を伸ばす。
それを掴めば温かく、形を成す。


そこには柔らかく微笑む―――脹相。


(あなたは、私のなんだというの……?)
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