第19章 耐え忍ぶ
地上に出てしまえば、薨星宮の結界内にいる脹相の気配は弱くなり、〝繋がり〟はまるで150年前に逆戻りしたように心許ないものとなっていた。
ここでは声を送ることもできない。
しかし、弱くても繋がっている。
いざとなったら先程脹相がやったように、気配を辿って再び薨星宮に行くことは出来るだろうとの確信めいたものが八重の中にはあった。
だからこそ、この地下部屋に再び入れられようとそれ自体は気にはならなかった。
八重はただ日にちと時刻を知るためだけにテレビをつけた。
気が散るので音声は消す。
ソファに座り天井を仰げば、チカチカと色とりどりに移りゆく明かりが花火のようだった。
そんな煌びやかな物から目を逸らすように瞳を閉じ、微弱になった脹相の気配に心を寄せる。
いつも平坦な彼の感情に変化はない。
あの空間で彼ら3人はどのようにして過ごしているのだろうか?
あの3人が談笑している姿は想像できないが何か語らったりするのだろうか?
そんなことを考えると八重の胸はチリリと痛んだ。
今まで永く生きてきた中で感じたことのない痛みだった。
次の日、脹相の感情に変化があった。
戸惑いの後から怒りに変わるそれは戦闘でないことは明らかであるのだが、何が脹相をそうさせているのかはわからない。
また胸がチリつく。
少し居心地の悪い痛み。
けれども、耐えられないわけではない。
そう思っていた。
地下部屋での生活が5日を過ぎようとした頃、脹相の感情が大きく震えた。
以前、渋谷で経験した感情の揺れとは質が違う。
脹相と繋がってからの150年間、伝わってきたことのない感覚。
しかし、八重は比丘尼になってからずっと他人のそれに焦がれていたのですぐに見当がついた。
それが今、〝繋がり〟で直に伝わる。
(…脹相―――泣いてるの?)
今までそんなことはなかった。
全力で兄を全うし、弟のために常に強くあろうとして、いつも前を向いている脹相が、今、泣いている。
人間の熱を帯びている。
その熱は八重にとって尊ぶべきものなのに。
八重を人間でありたいと思わせてくれる唯一のものであったはずなのに。
八重に流れてくるその熱は、地獄の業火のようにその胸の内を焼いた。
(どうして――今、私はそこに――あなたの隣に――いることができないのだろう―――)