第19章 耐え忍ぶ
呆然とする八重の前に今度は九十九が歩み出る。
「あいつと同じ事を言うのは癪なんだが、私からも言えるのは『信じろ』。今言えるのはそれだけだよ」
最後通告のような九十九の言葉に八重は立ち尽くす。
その肩に乙骨が手を置く。
「…行きましょう、八重さん」
今にも泣き出しそうな八重の表情に乙骨は悲しみを分かったように眉を下げた。
そして、肩を抱えるようにして支えながら一緒に出口へ歩き出す。
八重は最後にもう一度脹相を振り返ったが、遂に視線が合うことはなかった。
背後では虎杖が脹相の名を呼び「ありがとう」と言い、脹相も「死ぬなよ」と言葉を交わしているのが聞こえた。
(脹相、それはあなたにも言える言葉だよ…)
八重はいつだってその言葉を飲み込んできたというのに、脹相は簡単に虎杖に言う。
〝…脹相も……死なないで〟
〝繋がり〟で言葉を送るが何の返答も来ない。
虎杖に「ありがとう」と言われた感激で八重の言葉など届きもしない。
(私はあなたにとって何なのだろう…?)
いくら〝九相図の番い〟を名乗ろうと関係性が変わるわけではない。
足元が崩れそうな感覚を覚えながらも皆と一緒に昇降機に乗せられ、来た時とは逆に一回り重くなった身体を機械で上へと押し上げる。
そして、八重は再び高専内の地下部屋に連れてこられた。
「八重さん、この部屋、映画だけはめちゃくちゃあるんだ。この『ミミズ人間』なんてさ、面白くないのに4まで出てて…2は割と見れるから気が向いたら見てみてよ」
自身もこれから大きな戦いの中に向かうというのに虎杖はやけに明るく振る舞い、映画のDVDやらお菓子やらジュースやらをわんさか出してきた。
八重はその気持ちにだけ「ありがとう」と弱々しく笑う。
「閉じ込めるみたいで嫌なので外から鍵は掛けません。でも、ここから出ないでくださいね……僕も八重さんには無事でいて欲しいです」
乙骨の言葉にも力無く頷く。
そうして皆それぞれの向かうべきところへ去っていく。
(どうして、私は……私だけ……)
八重は皆の背中を見送りながら、何もできない自分の無力さに、何もさせてもらえない周囲の気持ちにただただ心が砕かれた。