第18章 サイカイ
「そしてここからは警告。手を引くなら今だよ。今ならまだ引き返せる。呪術界もそれどころじゃないから気づかれることなくここを去れるし、私も追わない…どうする?」
九十九は試すように八重の瞳を覗いてくる。
八重も九十九の瞳を覗く。
その中の感情を探す。
そして。
(あぁ…この人も…)
八重の強張っていた顔から力が抜けた。
口元は僅かに微笑んですらいる。
八重はまっすぐ九十九の瞳を見た。
自分の想いが伝わるようにそれ以外の感情は乗せずにそのまま、まっすぐ届ける。
「私は、行きます。九相図と共にある、それは150年前から続く私の本懐です」
数秒、二人で見つめ合う。
どちらも逸らさず、引かない。
視線の応酬の末に九十九が破顔し、称賛なのか冷やかしなのかヒューイと口笛を鳴らす。
「Good!一途な子はタイプだよ」
ワシワシと八重の頭を撫で回した。
なんだか認められた気がして八重も嬉しそうに笑う。
(私は、恵まれているな…)
そう思いながらも、もう八百比丘尼を名乗ることはできないのかと少しの寂しさもあった。
そして、ふと。
「でも、困りました…」
未だに八重を撫で回す九十九が、「ん?何が?」と訊く。
「八百比丘尼が名乗れないとなると…その、私の肩書き、みたいなのがなくなってしまい……脹相といる私は何になるのでしょうか?」
その言葉にその場にいる全員が止まる。
昨夜から一緒にいる男子3人は変に目配せしている。
それに気付いた九十九がニヤリと笑う。
「一緒にいるのに肩書きなんているのかな?それでも欲しいってんなら、そうだな…『九相図の〝番い〟』とかは?」
九十九の提案に真っ先に脹相が「つがっ…!」と言葉を失い、八重は徐々に表情が明るくなった。
「〝番い〟……すごくいい響きですね。なんだか、一緒にいてもいいって感じがします」
八重は隣にいる脹相を勢いよく仰ぎ、キラキラした目で見る。
「私、脹相の〝番い〟を名乗ってもいいですか?」
たぶん八重の言葉に他意はない。
本当に素敵だと思っていっているのが言葉や表情でわかるだけに、脹相はなかなか返答ができない。
しかし、八重の熱視線に圧されて遂には「……勝手にしろ」と折れた羽目になった。